生れ落ちる日を望まれた。成長を、正常な世界の為の生きる道を望まれた。
しかしそれでも奪われることだけは、絶対的なレールを敷くローレライは何も言わなかったのだ。
言えなかった、それだけかもしれない。それでも今の自分にとって、それはそう大した差も無く。
結局憎悪は被験者である自分の、出来損ないのレプリカ風情にしか沸かぬことを。
知っていたのだ。ずっとずっと、昔から。
だからこそ、それが何かに変わることが恐ろしくて、たまらない。
「っ、……アッシュ!待てってばアッシュ!!」
「人の名前を往来で連呼するな、この屑!」
「おまっ…また屑とか…!屑じゃなくて、ルークだっての!」
「うるせえ!レプリカ風情なんぞ、屑で十分だ!!」
自分でも不思議になるぐらい、何故此処まで徹底して邪険に扱うのだろうとも思う。
ちらりと思考が、疑問としてよぎっても、ソレすら掻き消す様に植えつけられたも同然の憎悪が肉体を血を神経を巡り巡って脳へと到達して、口からは罵倒しか出てこない。
そうすることで自分は自分であり、たまにかすめる姿とは違って。
緋色である己とは違う橙を混ぜたような陽だまりの色とはまったく違うのだと、言い聞かせるように。
全く別の物であって、それでも、これは。
「っだー!!アッシュ!オイコラ聞いてんのかよ!!」
「…………!!」
唐突過ぎる騒音攻撃に、沈みかかっていた意識が戻される。
耳元でこれは訴えたりも出来るんじゃないかと思えるほどの大音量がびりびりと鼓膜を揺らす。
あまりにもな大音量がそこらじゅうに響いて、叫んだ本人に羞恥心とやらはないのかと疑ってしまう。
しかしレプリカなのでそこはあえて何も言わないで置く。所詮、劣化レプリカに過ぎない。
言い聞かせるように。
「ぎゃーぎゃー五月蝿えな!何か用でもあるのか!」
「ない!!」
「胸を張って言うな!!」
「用がなくても、呼んじゃ駄目なのかよ!」
なんと、無茶苦茶なことを言うのだろうかと、思わず前へ前へと進めていた足を止めたせいで、背中にぼすんと突っ込んでくる衝撃を受けることになってしまった。
劣化品は思考回路も少々イかれているのだろうかと首を捻りたい。
「何を無茶なこと言ってやがる。大体、ナタリア達はどうした。」
「宿だよ!丁度お前が見えたから走ってきたんだっつーの!」
「ハッ、用もないのに呑気にお散歩か。楽しくていいなぁ、レプリカ野郎は。」
途端、強く背中を、どん、と、押される。
情けないことに油断をしていたせいで、ぐらりとふらつきながらも数メートル先へと歩を進めてしまう。
「…っにしやがる!」
「…ううん、ごめん。なんでも、ないよ。」
「お前は、なんでもないのに人を突き飛ばすのか!!」
そこで、完璧に頭に血が上る。
丁度いいと言わんばかりのタイミングを見計らって、さっさとこの場を去ることに決め、ざくざくと足を進めていく。
それまでは鬱陶しいぐらいに街中を着いて回ってきた足音はあの場所から動くことはなかった。
「…せいぜい俺の場所で生きてがれ。」
小さく小さく、しかも、無意識の間に呟いたはずだった。
「違うよアッシュ。」
「………なん、だと?」
独り言に割って入った否定に、思わず振り向く。
何故聞こえていたのだろうなんて、そんな疑問は吹き飛ばされる。
自分もそんな表情が出来るのかと疑いたくなるような、何色も映していないような無機質な翡翠色の眼球が、思考も持たずにこちらに向けられていた。
そうして、告げられる。
ざわりと、音がする。。
「お前は消えないで俺が消えるんだ。」
風が声を薙いで逝った。
残ったのは何故だか解らなくなるほど胸が苦しくなるような、自分と酷く酷似しすぎた顔が彩る苦痛と消えそうな笑み。
贄はそれでも生き急ぐ腕を掴む。
(囁きは聞こえやしないのに、それでも毒のように痛みを貫いた。)
(最後の最後、ルークの声はアッシュに届いてませんよ、というオチ。)(ルークを憎んできたアッシュが変わるには絶望的なくらい大きなショックがないと無理じゃないのかとか思って。ルークはアッシュ大好きだけど、まずはアッシュをかえなきゃいけない。でもアッシュが変わることを自制してんのでむつかしいのです。いやまぁ、もーちょいで変わりそうだなと思ったけど、これ書いてたら(笑))(060815)
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