きみは、どこへと――――消えたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
















彼方の空今此処に居るはずも無い君を思う。只それだけが今僕に出来る全ての事。


 

 

 

 

 

 























飛ばされた、扉の向こうで。

はじめに見た姿はあの鎧姿の、只独りの我が弟。
けれども彼は刹那に姿を消す。
彼の名を叫べとも、それは一種の幻のように――いや、それこそ夢か幻だったのかも知れないのだが――消えてゆく。


再び目の前に影が見え。
弟の姿ではなく。現れたのは“腹違いの”兄。
きょうだい、というものは弟だけだと思っていたのに、それはとても酷い形で思い知らされたのを、まだあの痛みのように鮮烈に覚えている。


そして。
彼は


さようならも言わせず、消えてゆくのだ。







「何だよ…2人して、置いてくんじゃ…ねぇよ」


呟くさえも消えてゆく。

この無の空間。
そしてこのわが身も











消えて、ゆく。



























「ウィンリーィ!!!」
「何ー?アルー!!」
「僕ちょっと、デンと、川原にー!遊びに、行って、くる、よー!!」
「わかったーー!!私も、行くーーー!!」

叫びあいながら対話をするのならば、この足で駆けてゆけばいいのにと思ったのは、既に遅し。
ウィンリィは大急ぎで家の中に入り、大きな音をたてて数分後に息を切らせてにっこりと笑顔で出て着てしまったからだ。(そして僕はその笑顔に負けている。)(何しろ背丈も彼女の方があるし、何よりスパナでがつんとやられるのが怖い。まぁそんなことを本人に言えば、一発お見舞いされるのは見えているけれど。)

僕が此処に居ることは本当に不思議でたまらない。
僕には、兄さんがいる――――いや、居た。
けれど僕が再びこの世界で目を覚ましてみれば、あの綺麗な金の髪と金の瞳を交えることはできなかったのだ。
何故なら兄、エドワードは今。

此処に、居ない。



僕は錬金術師だった。
今再び勉強して、それからもう少ししたら、師匠にもう一度、弟子にしてもらおうと。
独りで考えている。此れは誰にも離していない。ウィンリィに話せば反対されるのは目に見えている。ばっちゃんは僕に弱いから、なんだかんだいって許してくれるのだろうけれど。
只ほんの少し、ためらっている。

今此処に兄さんは居ない。僕は一人だ。
どうしてなんだろうとか、そんな理由は今僕は持ち合わせていない。
だからこそ、僕は錬金術を勉強しようと、決意した。



「まってて、兄さん。


僕は兄さんを、みつけるよ。」

星の綺麗な夜。
明日は師匠と一緒に、故郷を離れて。

兄さんを探すのだ。
たとえ、独りきりだとしても。





僕は独りだけど寂しいなんていわないよ。
だってきっと
兄さんも

独りでしょう?











































「大佐、意識が飛んでますよ。」
「ん?………あー…中尉か。」
「えぇ、その中尉とお供のハヤテ号です。…あぁ、すこし買い物に出てる間に林檎がこんな茶色になってるじゃないですか!」
「……あったのか?」
「…さては私が出ていたのにも、気がついていませんね。」
「………すまない、わかったから噛み付かないでくれないか。ハヤテ号。」
「あら?もっと噛み付いてもいいわよ、思いっきりね。」
「………中尉、上司である怪我人をいたわる心はないのかね…」
「さっさと林檎食べちゃってください。」
「………………(もぐ)」

目が覚めて、まぁ色々と部下やらに騒がれたものの。
私はヒューズの仇を討った。――いや、本当に討てたのだろうか?
仇を討ったのは今はもう此処に居なくなった彼ではないのだろうか?

最期にあんなあっけなく溶けて消えた姿を思い出すと
どうしてもそう、思うのだ。


「中尉。」
もくもくと、林檎を食べるのをやめて改めて例の質問を浴びせる。
「エドワードは、見つかったのか?」
彼はもう国家錬金術師をやめた。だから二つ名で呼ぶことは私自身が許さなかった。
「……いえ、まだです。」
「そうか…。」
溜め息が漏れる。

彼は、そう。消えたのだ。
その言葉どおり。

聞けば彼は一度、ほんの短い間なのだけれども彼自身の体を取り戻したという。
夢にまで見た生身の手足と温もりを感じて彼は何を、思ったのだろう。
それは私が必死で戦い抜いている瞬間であるのだから、何も。わかることは無いのだけれど。

けれど

其の生身の手足は彼の弟の魂とそれからソレを定着させた鎧とそれから
――多くの命から生まれた、一つの悪夢のような石の、犠牲。
そして、彼は、
其の命丸ごと捨てて彼の弟を蘇らせるという道を、選んだ。
この世界全て
捨ててでも。


だから私は早くこの傷を癒しそしてゆくのだ。
彼を探しに。

彼は居なくなったと言うものは多いだろうけれど。
私はそんなもの、信じない。


何故なら彼は私やそれから大切な物を置いて消える訳は無いだろうから。
私が此処に再び戻って来れたように。
きっと彼だって、戻ってこれる。


そう、信じている。

 

 

 

片方を遮られた視界。

それでもきっと君の姿は

 

 

 

 

見えるから。

















































「っだーーー!!遅ぇなーもー!!!」
ぼふん、と音を立てて、目の前にあったベットに飛び込んでみる。
不思議なことにもうこの世界に慣れだしている。
多少不便なこと――やはり錬金術を使えないということは、とても不便でたまらないのだ。――もあるのだが、それはそれでやり甲斐があるというものだ。

液体燃料によるロケットに関する資料にもう一度目を通して見ようと資料を探すためにぐるりと視界を回せばふと準備をしていないことに気がつく。
「……ったくー、アル!わかってんだったら言えよな!……………あ…」
斜め、後ろ。
もしくは、横。直ぐ隣。

彼は居た。今は共に進めぬ彼が、いた。
「っあ゛ー……もー…俺の馬鹿…」
只、辛いだけなのに、思い出す。





「元気にしてんのかな、アル…大佐…」
さようならを言った後。
彼がどのように作戦を実行し、そしてその結末すら俺は知らない。
あんな奴に限って消えてしまうなどということはありえないと
信じているのだけれど。


それでも不安は募るのだ。

「…あんな憎まれ口とか皮肉でも…気休めにはなってたのかもしんねぇなぁ……」

空しく、独りごちる。
そしてやはり誰も、答えてはくれなくて。


不安要素など、まだ沢山ある。
ラッセルやそれからフレッチャーは、ちゃんと被害をこうむることなく、また研究を続けていられるのだろうか。
そういえば最期に生きて帰って来いと言われた気がするから、もしもまた再び会った時は一発殴ってやろうと思う。
まだ偽者事件のことを怒っているわけじゃなく、奴としんみり話をしたくないだけなのだが。
そうすればきっと喧嘩してすっきり、で終わると思う。彼は何処か、似ている気がしたから。何となくソレでいいのだと、思うのだ。
巻き込んでしまったロス少尉やブロッシュ軍曹、それにシェスカは、無事に軍に復帰できているのだろうか。
できていなくてもまぁ、あの大事の中で生きていればそれでいいのだけれど。
あの人たちは本当に、いい人だったから。
師匠も、きっと無茶をしていると思う。
…吐血で死んでいないことを願う。もし戻ったら確認すべきことが増えた。殴られること、必須だけれど、それでも逢いに行く。
リゼンブールでまっていてくれるウィンリィやばっちゃんも、無事なら無事でそれでいい。
帰ればいいんだ。
アルだって……きっとなんとなく生きていると思う。
あの錬成が不完全だとしても、あの瞬間までに理解した全ての事柄をつぎ込んだのだ。
それで生きていなかったら、俺が怒る。
そうだ。

俺は、帰らなければいけない。
帰って















皆に


逢うんだ。













































拝啓、今は届かぬ地に居る俺に関わった全ての人へ。










きっと

















帰るよ。




だから心配しないで忘れずに。

































待ってろ!

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなわけで(どんな)一発書きです。すみません。緋咲です。
最終回でした。ね。衝動で書きました。3日もかかってこんなのかとか言わないで下さい。
本人泣きながら必死に書き上げたので(笑)
3周年を迎えるあの御方に捧げたりします(あえて名前は伏せますよ?(笑))
何時も何時も貰っているので、お返し……になればいいな!(遠い目)
なんだかアルウィンだったり大佐が浮気している気もしなくはないですが其処はあえてスルー。
次は自作最終回お題にでもチャレンジしたいと思います。
こんなですいません、本当。よろしければ受け取ってください。指パッチンで消去可です。

そんな感じで。
アスフォデルやれよとか言われそうな。緋咲でした。

鋼熱はまだまだ冷めません。
むしろ覚めろというほうが無茶な話だね。(笑)

041004//Hisaki.S.