俺はガイを信じるよと、図体だけでかい、中身の幼子が言った。
刹那に、ガイラルディア・ガラン・ガルディオスは死んだ。
復讐という名の今にして思えば単なる自己満足でしかないものの道具として一から育てることを余儀なくされた。未来、利用される子を。
白い部屋に白いベッド。浮かぶように絹のような髪が散りばめられる
緋色の糸はきらきらと光り陽を弾く。
何処か虚ろな翠の瞳は王族に連なるに足る強い光を喪い、がらんどうなままのガラス玉のように眼前を写すのだ。
それでも、全てを消されたルーク・フォンファブレには何も理解できないだろうに。
ひそやかに柔らかな声色でうそぶいてみる使用人や白光騎士たちの声は一体どれほどの段階まで、理解できているのだろう。
出来ていない、訳はないのだ。子供はどんな生き物よりも聡く、そして吸収力は大きなスポンジのように。
「ルーク、」
もぞりと、白い山が蠢く。ソレは自分の名前であるということは、分かっているらしい。
「ルーク。」
もう一度優しく呟けば、赤子のように言葉ではない何かを発しながら、そろそろと山からもれていた赤い髪を揺らしながらそっと顔を覗かせる。
疑心暗鬼、なんてそんな人間らしい瞳ではなかった。それは。
出来れば見たくなんてなかったような、そんな瞳で。
「あ、ぅー」
純粋に。
ただ只管に助けを求めるように手をつ、と伸ばして。
此方に何かを訴えた。
それを掴むのか、それとも大人気なく弾き飛ばすのか。
それを選択できるのはガイであり、ガイラルディアであり。
「あぁ…」
今此処でこの幼子を消して、殺して、そのまま逃げるのもまたいいのかもしれないと思ったくせに。
それでも、その手をそっと握り返していたのもまた、自分であったのだ。それは忠実な使用人のガイであり、姉を家族をそして生きてゆく未来すらをも亡くしたガイラルディアでも、あったのだ。
復讐を望むガイラルディアはルークを育て。そうして殺す事を望み。
教育係となったガイはルークを見つめ。そうして殺す事を拒絶し。
矛盾ばかりが続くまま。のうのうと7年間を過ごし、嫌悪するほどに憎悪が薄れ、そしてその事実に裏側で喜んだ。
だからこそ、この世界が、今でも憎い。
重すぎる宿命を、子供に負わせた、この世界。
賭けに賭けた己を裏切り子供を裏切り、逃げ出した自分に。
それでも拙く受け入れた子供に。
それから、
今日、殺された、ガイラルディアが、とても、憎たらしい。
「ガイ、寝れねぇの?」
その、声に。
沈んだようなそれでいて中途半端に浮いたような意識が完璧に現実へと引きずり戻される。
どうやら自分はベッドに腰掛けたまま、中途半端に意識を沈めていたらしい。
今日の同室であるルークは背後からそっと、声をかけていた。
「うん?なんだルーク、起きたのか?」
「ん、いやなんか…目、醒めた。」
「そうか。…そうだなぁ、何か、飲むか?」
飲む!と目を輝かせる主でありそしてまた親友でもある子供に、以前のような生暖かな視線ではなく確実に甘ったるいであろう、そんな視線を向けながら。
憎悪を劣化させた煌めいた夢から醒めたくはないものだなと、切に祈った。
願わくは、未来永劫の時を、君と。
(叶うものだと、その時は本気で思っていたんだ。)
(ガイルクっていいよね、と最初に思い立って浮んだ話はこれでした。カースロットイベントでガイルクに堕ちたからです。直球で勝負なルークがすきすぎてたまらない。そのうち華麗に子育て!が書きたい。)(060620)
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