白い花冠を頭にのせて笑う姿はきっとあせない記憶になるのだろう。 
ガイラルディアがじくりと痛んだときにそう思った。 
「ガイ、かんむり、もっとー!」 
「ああ、わかったわかった!わーかったから、花は踏まないでおとなしくしとけ?」 
姉上の、決して器用とはいえない手付きを思い出しながら。 
庭師の育てた庭で、影になった自分の闇をかいま見た。 
それが何故だとか、理屈くさいことは一切思い至らないくせに、あの眩しすぎる純粋無垢な笑顔を見ているとそちら方向に勝手に思考は持っていかれる。 
多分それが最初の距離だった。 

 

 

 





「…はーーーぁ、………」 
「ガイラルディアうざい。俺のかわいいルークに向かって溜め息をつくな」 
「酷いですね陛下…」 
「…当たり前だっ…くそ!」 
皇帝陛下が柄にもなく、物にやつ当たりするのも無理はないと思う。 
あの夕暮れにルークが溶けていった日からしばらく。キムラスカの使者としてきた男の発言。それはまるで彼の死が正当なものでありそれは当然だといわんばかりの、薄汚い声。 
「ガイラルディアはよくもまあそこまで平然と…」 
「平然と…ってほどでもないですけどね。今すぐ剣を抜いて走っていって殺したいです。」 

けれど。
「でも、何も言えなかったんですよ、俺は。」 
そして結局最初に出来た距離も、道中で更に深く抉れた溝も、広げるだけ広げてどうしようもなかった自分に。 
最後まで美しいほど、その手を赤く赤く染めて尚無垢なルークに。 
彼が消えてそれでも何も言えない自分はきっとあの男よりももっと酷い、なんて。 
「女々しいとか気持悪いとか、まあそこら辺は分かってますけど。分かってて言いますけれど。」
「何だこの変態ガイラルディア。」
「だからって平然と公言されると傷つくぐらいしますけどね!……ルークにすら、何もいえなかったんですから。」
あの日、カースロットの呪が発動しなければ。否、それ以前の問題として、自分がシンクの術にかからなかったら。
きっと自分はルークに真実や本当の自分の名前や、沢山の嘘を口にすることも謝罪することもそして薄れたといえども幼い頃からの憎悪により作られた膜のような壁を壊すことも。
何一つ出来なかっただろう。出来なかったではなく、本当を明かすことをしないになるだろうけれど。
「卑怯で最悪な、どうしようもない嘘つき人間の俺は、ルークに声を掛けられなかった。問い質すことすら出来なかった。だから今更アイツの為に糾弾するだなんて。できませんよ。」
「………ルークもルークで卑屈だがなぁ…。やっぱり育ての親だなガイラルディア。但しルークは許せたがお前の卑屈っぷりはいっそ殺したくなるほど腹立たしいな。」
「やめてくださいよ、返り血まみれの皇帝陛下なんて、ジェイドあたりが喜んで玉座から引き摺り落しそうじゃないですか。」
「そしたらアイツも殺す。」
「陛下、そろそろ物騒なんで辞めてください。目が怖いんで。」
グランコクマの水は流れ落ちる。陽は昇りさんさんと輝き続ける。
それは何時の日も続く、幾年も前から続くこと。

 

 

 

普遍の日常を壊した世界に、手をかけてしまった少年。
少年ではなくただの子供だったルークという存在が護り抜いた世界。
全ての汚点を忘れるふりで、彼の血を土足で踏みにじる人間たち。
どうしてお前のいない世界は変わらずに過ぎていくのだろう。


皇帝陛下が爵位を復活させた後、手配までしてくれた屋敷には華が咲く。
ルークが懐いた、剣士だった老庭師が今日も働くのだ。あの方が愛した庭をここでももう一度作りましょうぞ、ガイラルディア様、と。そう言って。
刹那、ざわりと吹いた風に純白の美しい花びらが舞った。
脳裏をちくりと刺して、記憶は勝手に再生される。

 







記憶の中でも眩しすぎる笑顔に目は眩み、そして逸らしたふりを、する。
「ガイ、ガイ。」
明るい、オリジナルである被験者様とは全く違う柔らかな温かさを写した色を靡かせて、花冠を頭に載せた子供が確かにその名を今、呼んだ。




君が骨になるまで、僕が床で死ぬまで。
(君は骨になれない。だから僕が床で死ぬなど幸せなことは有り得ない。)








(当初の予想を遥かに上回る電波っぷりですみません。俺の文は割と電波と言われるけど本当にその通りだな!)(そしてガイが気持ち悪いほどにうじうじ乙女で腹が立つ。加筆したらますます乙女でどうしよう。どこの遠距離恋愛してるオンナノコだお前。と突っ込みたくなった。陛下が凶暴な上にヤケに存在感があるのはきのせいじゃありません。ピオルク主張してるんです。黒ガイでもいいんですが、凶暴な陛下もいいと思ったんですよ!)(061025)