氷帝学園中敷地内、交友館ニテお逢い致しましょう

ー邂逅はヤニ臭い男の微妙な笑みと、死にたがりの目をした冷たい少女。ー

 

 

 

 

夜は必ず明けるものであって、闇は何時でも光を待って泣いているのだ、と。
暁を孕んだ優しすぎる、唯一友人だったのではないかと漠然と考えていた人間はそう笑いかけた。
消えない記憶。
消せない白光。

 

 




咲夜が死んだ。
電話でしかやり取りのない彼女から届いた空模様の封筒。それに書かれた名前を見て一体全体どういう風の吹き回しだろうか、もしかすると明日世界が滅んでくれるのではないか、そうでなければ晴れなのに雷鳴と吹雪がセットで着たりするんじゃないのだろうか。
どこか変な音を立てた心を無視することも出来ずに、少しだけ躊躇いながら自分から電話をかける。
泣き声で、返答は返った。
昨夜の声は震えていただろうか、自分を呼んで今日はね、なんて話しかけていた声は、ささやかに軋んでいたのだろうか。
たった数時間の夜の闇、何を思い何を考え何を如何してそんな結論に至ったのだろう、何もなしに死んでしまった彼女を少しだけ恨んだ。
鮮烈過ぎて強く痛い陽射しに目を背け、鞄を持ち、きっと彼女のように軋んだ心に気付かないふりをして。
日常に、戻ろうと。冷たさだけを放つ扉を開く。眩しすぎる外へ足を踏み出すのは何時でも憂鬱で。
そんな憂鬱さを思って、日常と思った。


夏とは正反対の学園内は当然冷房完備になっているため、ちらほらといる長袖に紛れることが出来る。
そういった部分にはとても感謝していて、だから当然それを、隠した。
自分が驚くほど冷静に、人間性を自ら疑いたくなる程の平常心で受けた午前授業。
終了のチャイムが鳴ると同時に教室を離れ、屋上へと向かう。
新館や本館と違い、案外知られていない少々ギィ、と古めかしい音を立てる錆びた扉を開ければ、夏の匂いが一気に駆け抜け、手にやんわりと持っていた手紙を今一度強く持ち直す。
靡いた髪が少々鬱陶しかったが、かまわずに足を進め、定位置であるポンプの裏側、遮断された程好い影に腰を下ろす。
恐らく私は、泣いているだろう。
封筒同様にうつくしい空模様の用紙に書かれた、少し角のない文字を捉えた途端に視界が揺らいで、ふるりと喉が揺れたから。



 

 

 




所詮は、同じ人間。
考えることは割と同じらしい。年代が近いせい、というのもあるだろう。大人ぶりたい餓鬼ばかり群れるこの場所に僅かな成長を求めても無駄だろう。
風が、毎日毎時間毎秒、何時だって変わらず程好く吹きすさび、ヤニ臭さを霧散してくれていた場所は、どうやら先輩様方がヘマをし、さらにはご丁寧に現行犯で掴まってくれたらしく。
立ち入り禁止という令状は既に生徒全員に振れ回っていたものの、まさかご丁寧に南京錠とチェーンまでが用意されているとは思わなかった。
「あー……しゃーないわ…。他探そ、他…。」
腹の虫が鳴くと同時に、少々ばかし苛々としたが仕方ない。
自分は侵入を完璧に拒絶する危険を潜り抜ける、リスクだけしかない道は進むことはしない。其処まで馬鹿ではない。
何処に行こう、まだこの学園の構造は完璧には知らなかった故に、脳内に記憶してあるはずの地図をうろ覚えで思い出し、物は試し、屋上があるのかどうかは知らないものの、とりあえず交友館に向かうことにする。
これでわざわざ歩いた距離が無駄になるように何もなかったらとりあえず何かに八つ当たりしてやろうと、変な決意までして。




扉を開ける。
一歩を踏み出す。

最初に出会うのは一番遠くて一番近しい寂しい子供。
愛に縋りついた、かなしい子供。

 

 


救いの手は全て斬って焼いて薙いで抉り捨てたふたりのこども。

 

 

 

 

 

(天才、忍足侑士は初版でも修正版の此方でも出張りました。ごめん大好き。(笑)初版同様またしても捏造というよりもオリジナル暴走。あの拙いというか幼稚な文章を読んでいた方には分かりますがこれでも進歩したつもりです。調子に乗るとね!……とりあえず第一部のあの終結に繋げるように頑張ります。チマチマと。マイペースに。)(061025++Hisaki.S.)