しろいいきがまう。 「……寒…。」 俺は今。 邂逅まで、ひとりぼっちの待ちぼうけ。 white breath しん、とした空間の中、じりじりと電話が叫ぶ。 うっかり眠っていたらしく、火にかけていたやかんがしゅんしゅんと怒ったように音を立てる。 ガスを消してぼんやりと電話をとると、聞こえた声。 「一騎。」 「…そ……し…?」 皆城総士。 彼が受話器の向こう側に、居た。 「あ…朝っぱらから何か、用か…?」 一気に目が覚めた脳。 驚いて、ほんの少しだけ声が裏返ってしまった。 「……お前、心当たりは?」 「心当たり…?」 「……いや、いい。なんでもない。」 「え?あ、ちょっ…総士!?」 溜め息を着いた後一方的にかけてきた電話を一方的に切って。 短い会話が終わりを告げた。 「……なんだよ…。」 心当たりが、無いわけではない。 もしも無かったら今こんな朝っぱら…朝の7時前に起きていない。 父さんだって起きていないような早朝から目を覚まして。 寒い中、わざわざ歩いていったんだ。 そんな時に今度響いたのは、玄関の音。 「…玄関……?」 こんな時間に訪ねる非常識な輩は一体誰だ。 「はいはーい!!…………いぃ…?」 「…随分と間抜けなご登場だな…。」 非常識極まりない輩は溜め息をつき、溜め息は白く濁った。 「総士!?」 俺と総士の白い息がふたつ。 早朝の竜宮島に存在してた。 とりあえず、入れよといって唯一温かい居間に案内する。 幸い父さんは休日だと言うことでまだゆっくりぬくぬくと布団の中で安眠中らしい。 少しだけ寒そうな総士と向かい合って座ったのは良いものの、彼の訪問の真意はなんとなくでしか解らないので、何もいえないまま。何も言わないまま。 沈黙が流れた。 「……悪かった。」 「は…?何が?」 「いや…突然朝早く、訪ねてきて。」 何が聞けるのかと思えば謝罪かよ。 心の中でそう突っ込んでいたら、彼は行き成り強気に喋りだした。 「だがな、お前もお前で非はあるんだぞ。」 「非…?」 「あくまでしらばっくれるつもりなら言ってやる。」 「……気付いた、のか?」 「当たり前だろう、あれだけ音を立てていたんだから。」 「う…。」 時をさかのぼると、早朝、6時。 白い世界の中、ぽつぽつと足跡をつけながら目的地へと向かう。 こんな朝早くから、しかも島唯一の学校は冬休みの期間。 朝っぱらから出歩く人間など自分以外何処にも居ない。 誰も存在を示していない無垢な白に自分という存在を刻み付ける作業に没頭しながら、ゆっくりと向かっていった。 皆城総士の、家。 彼の家ならば、随分前によく訪ねたことがあったので、それとなく構造を理解していた。 「…確か…此処……。」 物音を立てないようにゆっくりとターゲットの部屋へと近づいていく。 予想通り閉まったままのカーテンで、外は何も見えない。 窓の隙間からそろそろと糸につながれた片方の紙切れを入れて、紙袋の中に入っているものがぬれないように、そうっと雪を掻き分けていく。 作業は上手くいった。 最後の最後まで上手く……いくはずだった。 「…よし…。」 かじかむ手に自らの白い息を吹きかけながら、そっと立ち去ろうとする。 所持していた時計を見ればもう既に30分以上が過ぎていた。 そこで、あわてて立ち上がったのがいけなかった。 「っ…!?」 妙なところで冷静な判断ができるのは、きっと総士と一緒にいたせいだと思う。 目の前で植木に積もった雪がどさどさと落ちる音、自分に降りかかる寒さ。 とりあえず声は発さないで、無事にやり過ごして。 それで彼の家をそそくさと出てきた……筈だった。筈だったのだ。 「……そんなに、凄い音、したか…?」 「部屋の前の小さな木の音なんか、部屋の主しか気がつかないさ。」 「……ごめん…。起こして。」 「それは別に…いい。」 総士の話によると、雪がどさどさと降る音で目を覚まし、完璧に覚醒した後カーテンを開けてみると、残念なことに俺の後姿が一瞬見えてしまったらしい。 糸と紙切れに気がついてぐいぐいと引っ張ってみたら、目標は彼に発見された、という訳だった。 「……で。如何して正面切って来なかった?」 単刀直入に、なんとも痛いところを質問する。 彼のこういうところは相変わらず、といったところだった。 「し、仕方ないだろ!ちょっと照れくさかったんだよ!」 「だからってわざわざお前が早朝、何時に目を覚ましたのかは知らないがお前のことだ。よっぽど早い時間に目を覚まして。」 「…ご名答。」 「それで如何して寒空のした、雪まで降った後なのに、わざわざ僕の家まで来た?」 「……言わなきゃ駄目か…?」 「駄目だ。ただし僕が納得する理由でな」 「注文が多い。」 「悪かったな。」 完璧に、開き直ってる。 完璧に、面白がってる。 其の証拠に、彼の頬がほんの少し緩んでる。微笑んでいる。 これは確実に俺は遊ばれているということだ。 此処まできたらもう、覚悟を決めてとっとと言った方が身のためなのかもしれない。 「…………だから…、」 「だから?」 「えっと……あー……」 「……あまりにも遅いのならカウントダウンを始めるぞ。」 「え!?や、やめろ!言うから!!」 「ならさっさと言ってみろ、一騎。」 「………渡したかった、から。」 「プレゼントを?だったらさっきも言ったとおり何時だってよかったろう?」 「違…その………総士に、一番最初に…渡したかった、から…。」 「……………最初…に…?」 言ってしまったと思った瞬間、如何しようかと心の中がぐちゃぐちゃになったのは、どうやら聞き返してきた総士もだったらしい。 案外、予想外の答えだったのかもしれない。 「…だって、クリスマスは結局皆であぁしただけだったし…だから、その…誕生日は、俺が、最初に…何かしてあげようって、思って……」 確かに、皆でわいわいとやるパーティーも楽しかったかもしれない。 けれどそれは皆で行ったことであり、俺個人が行ったことじゃない。 それじゃ、嫌だった。 俺個人として、総士に、何か。 考えた末にたどり着いた結果が、ソレだったのだ。 「……呆れた…?」 「…いや、逆。」 「………逆…?」 「喜んでるんだよ…。」 ありがとう、と。 2人して真っ赤になったまま俯いて、総士はそういっていた。 ほんとうに、ありがとう、と。 「…おいしいって言ってたし、また、作ったのに。」 コーヒーが好きだ、と聞いたから。 甘い物が好きな総士の為に、コーヒーのパウンドケーキ。 初めて作るものだけど、案外上手くいったと思ってた。 思ってた通り、総士はとても、喜んでくれて。 「……独りで食わすきかよ、総士ー…。」 大好きな場所。 ひとり山。 俺達が何も理解しあっていない頃、総士が少しでもと思って此処にきていたこと、遠見に聞いた事がある。 あのあと一度だけ2人で此処を訪れた時は、結局何も喋らないままぼぅっとしていたけれど。 それは俺が全てを知った後だったから。 なんとなく、分かり合えていた。 理解しあっていた。 それで、よかった。 今年も、白い世界。 去年のあの日と同じ服を着て。 去年と同じ早朝、存在を刻み付けて歩いて来た。 『来年は、一緒に』 朝早く。 誰も居ない無垢な世界。 ふたりで存在という名の存在を刻みつけようと、約束したのに。 「居なきゃ意味無いじゃんか…。」 君の吐いた白い息が今は見えないよ、総士。 たったひとり、ぽつんと座り込んで、俺は白い息を吐いて君を待つ。 「ハッピーバースデー、総士。早く帰らないと、浮気するからな。」 たったひとりで、乾杯をした。 けれど、彼の存在、何となくわかってる。 そんな、気がするんだ。 |
…補完小説とクリスマス&1周年兼ねた小説読まないと解らない内容ですみません、本当。 |