音は吸われ、きらびやかなネオンの届かぬ広場に子供達がそうするように、独り、雪を掻き集める。
「ジェイドやネフリーさんのいう、ネビリム先生…ってひとは、」
気配を消すまでもないかと思っていたが、戦闘を繰り返した公爵家の箱入り(どちらかと言えば箱入りではなく籠の鳥かもしれない)にも気配を悟るという芸当ができるようになったらしい(最もそれは軍人や戦闘経験を積んだ者ほど研ぎ澄まされたものでもなく、ぼんやりと解る程度だろうが)。
相変わらず何がしたいのか雪を掻き集める手は止めずそして背後の自分を見るわけでもなく。
中途半端に途切れた言葉に続きはなく、無言の間を埋めるようにそれとなく促してみる。
「先生が、どうかしましたか?」
「…きっと、ジェイドをつくってくれたんだろうな。」
一体、何を言い出すのか、このまっさらな七歳児は。
どうにもこのレプリカとして生まれた者の発言は破壊力がある、とそのような意味合いの含まれた発言を以前ガイから聞いたことを今更ながら思い出してしまった。
そして、そうと自覚すればするほどに一体それはどういった思考回路の元で発せられた言葉なのかがますますわからなくなる。
「…これでも私は人の子ですよ。作られたわけではないです。」
「あ、うんそうじゃなくて…何て言うか…」
言葉を濁すとそれに連動するようにその雪をかき集めるような仕草も、今までと同じような一定の動きをしなくなる。
淡々と、白い山を作るのではなく、両手をばらばらと無感動に動かしながら。
真っ赤な、手を。
「…ルーク、」
「ん、何だよ。」
「手を、見せなさい。」
「はぁ?…ほら。」
感覚は、既にないらしい。
一体何時からこうやって無意味な雪山を作っていたのだろうか。
少なくとも、こうにまでなるのに5分や10分では足りないだろう。子供体温よろしく、普段は暖かな掌は、突き刺すような冷たさしかもたらさない。
赤い髪だけではなくその白い服にも、良く見れば雪は体温に溶かされながらもしぶとく図太く積もり続けていた。
「まったく、後先考えない馬鹿な子ですねぇ。」
「馬鹿とか言うな!大体、手ぇ離せっての。」
「おや、痛いんですか?」
「…は?」
一体コイツは何を言っているんだ、というような表情で此方を見るその翡翠の瞳に、現在の彼の掌よりもより血に近い色をした赤い瞳が映りこむ。そんな自分を見つめたら、にこりと微笑んで。
「今、私は、力いっぱい貴方の掌を掴んでいるんですけれどねぇ。」
「…え?」
いたく、ない。なんてぽかん、と呟いて、その握られて歪んだ己の皮膚を見つめて、ますます怪訝な顔をする。
恐らく、初めての雪を見てはしゃいでいたこともある彼は、凍傷なんて、知りもしないのだろう。
「いいですかルーク、足りない脳味噌をフルで動かしてちゃーんと応えてくださいね」
「馬鹿にしてんのかよ」
「掌が、随分前に、ちくちく痛くは、なりませんでしたか?」
「うん?……あぁ、うん、ちょっと痛かった、かも?」
「…馬鹿ですねぇ。早く帰りますよ。この掌、このまま冷やしておくと重度の凍傷になります。」
「凍傷?」
「剣を握る腕が使えなくなって、あまつさえ切り落とさなければならないかもしれない、ってことですよー」
からかうように微笑んでそういってやれば、一気にその表情が恐怖を表す。
剣を握ることができなくなれば、戦うことも世界を救うこともできず、彼の存在意義は消されてしまうと、考えているのだろう。
ルークという、この、レプリカ技術が生んだ子供にとっての存在意義は己が決めたものではない。
だからといって、誰かに強要されたことでもない。
誰でも、ないのだ。
あえて言うのであれば、それを許容したのは、
したのは、世界。
「哀しいですねぇ。」
「ジェイドも、哀しいとか、解るんだよな。今は。」
「おやおや私を一体なんだと思っているんでしょうか。」
「……うん、やっぱり、さ。」
「はい?」
「ジェイドや、ディストや陛下のネビリム先生はきっと。
きっと、ジェイドに嬉しいとか哀しいとか、感情を、作ってくれたんだろうな。」
雪に紛れた世界に臨む。
(あぁそういう意味ですか、と笑えばその笑みの意味すら理解しない子供はきょとんと此方を見上げた)
(最近レイアウトというか、まぁそんなん。パターン化してきた気がする。このレイアウトは俺自身がずどーんてインパクト受けて、んでも皆様使ってらっしゃったので便乗しただけなんですが(笑))(ジェイドとルークは、たまにジェイドが負けていればいい。無意識のうちにルークの天然過ぎる真理に近しい発言に、うっかりとやられる35歳。)(060620)
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