「お前なんか死ねばいいのに」

ぽつりと呟いた言葉は小さくても、大きなひび割れとなって心に残る。
不定期に行う診察と称したある意味二人きりの逢瀬の終了後、何時もの白を羽織ったまま、ボタンを捻りながらそんなことを言い出す。
「俺を作ったのはジェイドなのに、作られた俺は死んじまうのに。なんで死なないんだろうな。なんで死ぬんだろうな。」
「さあ、全てはユリアとローレライの気まぐれでしょうね。」
「気まぐれで俺は死んで、気まぐれでお前は死なないで?なんだよ、それ。」
ぐるぐると同じ方向に捻り続けられるボタンが何時取れてしまうのだろうなど、全く関係の無いことを考える。自分にしてはなんとも情けないやらだが、ルークの発言の3割程度しかこの頭には入っていない。
聞こえないのだ、死ぬだの、死なないだの。そんな言葉は聞こえない。
理不尽な世界の、不条理な結末を語る子供の、決して罵る訳でもないのに痛くて痛くてたまらないような発言は聞こえない。
「なあジェイド。死なない?」
「貴方の代わりなんて死んでも御免です。」
「それじゃあ俺が殺してやるよ。その場合、お前が譜術使うのは禁止な。」
「結構ですよ。謹んで辞退させていただきます。貴方に殺されるなんて屈辱です。末代まで語り継がれるでしょうねえ」
「じゃあどうやったら満足だよ、お前。」
「満足、とは?」
「とぼけんな!!」
ああ、取れた。糸が切れた。
ぶちりと音を立てて、彼のボタンが取れた。
「こっち見ろよ!何で俺のこと、見ないんだよ!!」

声を荒げるルークの声は聞こえない。この耳から聞こえる音は何も無い。
小さく音を立てて床に落ちたボタンの音がチラリと耳に入るくらいだ。
「何が満足とは、だよ!お前、自分がどんな顔してんのかわかってんのかよ!何が死霊使いだよ!何が軍人だ!テメエみたいのが軍人なら俺でもなれる!そんな今にも泣き出しそうな顔チラチラ見せやがって…!!」
ああもうくそ、とかなんとかいう声も、私には聞こえない。聞いてはいけないのだ。
「死ぬのはお前じゃないんだよ!俺だ!俺を、レプリカを、全ての元凶を作ったお前がそう簡単に死ねるとでも思ってんのかよそんなわけある訳ないだろ!俺が、許さない!死ぬのはレプリカで、俺で!テメエじゃねえ!!」
これから死んでゆく人間の、ただの、不安定な八つ当たりだ。
だから目元の筋肉が緩みそうなのも、きっと気のせいで。

「それじゃあ、もう一度言ってあげますよ、ルーク。私の為に死んでください。世界の為ではなく、貴方が喚きたてるほど大好きな、死霊使いジェイド・カーティスの為に。」
「…死ね。百遍死んで、それからもう千回死んで来い。そんで、俺がぶん殴る。ジェイドのデッキブラシでぶん殴る。」
「それじゃあ貴方は千百一回死ななければなりませんね。私を殴るならば貴方はより多く死ななければなりませんよ。」
「いいよ、別に。だって死んでも、ジェイドがまた、俺を見つけてくれるだろ。」
まるで、死刑宣告のようだ。
これでもう私はきっと幾ら彼が愛しくても、彼の居ない世界、死ぬことは出来ない。
「…ええ、そうですね。ばらっばらになった貴方の音素を、仕方がないので気が向いたら拾い集めてあげましょう。」
そんな夢みたいなことは無理だと知っている。
これは全て聞こえなかったことなのだ。幻のように、心に強く残って、消えない幻聴。
「…とりあえず、ルーク。一度脱いでください。」
「は!?」
「貴方が綺麗にもぎとってそのまま放置されたかわいそうなボタンを私が直々に縫い付けてあげます。さあ脱いでください、今すぐに。」

さあ、今度こそ笑みは上手く作れているのだろうか。




百の嘘、千の幻聴。
(知らないフリのツケはきっと彼の死。)

 




(萌茶ログですが。どうしようもない位後ろ向きなジェイルク。救いようのないくらいがいい、という話をしていたので、勢いのまま書いた感じ丸出しです。ジェイドよりルークの方が酷いと、さらに緋咲さんは喜びます。すいません性格捩れてて。(笑))(060914)