許されますか?
許します。
許されますか?
許します。
許されますか?許されますか?この罪もこの生も此処に立つ僕という存在そのものは。
はい。
許されますか?
許します。

 

 

*                    *                    *













「例えば沈む世界でたったひとりが助かるのならば貴方は迷わずひとりではなく全員の手を取るのでしょうね。」

「………唐突、ですね。随分と。」
「失礼しました。ちょっとひらめいたもので。僕はきっとひとりならば自分のことしか考えませんけれど、どうせどろどろに甘い貴方は全員と応えるでしょう?違いますか?」
何年たっても変化の無いその個性的過ぎる笑みを漏らしながら、報告を終えた骸が言った。
「今日は一段と饒舌ですね…」
「クフフフ、やっぱり解りますか?少しは手ごたえがあったもので、その興奮冷めやらぬ、というやつです。まあ、所詮足元にも及びませんでしたがね。」
つらつらと述べながら、視線では先ほどの曖昧な問いに対する答えを促すようにこちらをじ、と捉えた。
赤と青の、全くもって対照的な色彩の魔力とも言えそうな禍々しさは年々増していた。
今はすこしナリを潜めているが、それでも先ほど言っていたようにまだ程好く熱に踊っているのだろう、僅かに狂気が漂っていた。
「……解っているような質問、しないでくださいよ。骸さん、時間の無駄になるようなことは嫌いだって、行く前に言ってたじゃないですか。」
「君の口から答えを聞くまでは解ったということにもなりませんよ」
「俺、割と骸さんの理屈が解りません。」
「それでも結構ですよ。さあどうですか、10代目。」
やはりこの人は達が悪い。どうしてソレで呼ぶのだ、よりにもよって。
くすりと、無邪気に見えるようでその割りにしっかりずっしりと邪気を孕んだ笑みを再度此方に向ける。
此処でもう一度はぐらかせばきっとこの人の機嫌は最高潮に堕ちるのだろう。例えとして言葉は可笑しいが、これが一番しっくりくるな、なんてことを脳裏に張り巡らせてから、ふと息を零して応える。
「勿論ですよ。俺は、皆を助けたい。それがどんなに絶望的な状況でも、きっと。」
「本当に、愛おしさのあまり殺して差し上げたくなるほどの甘さですね。昔も、今も。君は変わらない。」
「それは外見面のことではないですよね?どうせチビですよ、どうせ童顔の日本人ですよ…、骸さんと違って!」
そこでそういってみればまたあの特殊すぎる笑みを漏らしながら実に愉快気に微笑みかけてくる。
「クハハハハ!やはり君は変わらない!だがそれこそが君のよきところなのでしょうね。僕は恐らく、君が"変わって"しまえば君を殺すでしょう。」
物騒に物騒を重ねてさらに厚く塗りたくったような回答ばかりを並べてくれる。
ここに武器であると主張するような物体がなくて心底安心する。最もそんなものをボスの部屋に置いておくなんて馬鹿なことを、リボーンはしないだろうけれど。
もしソレがあったとすれば恐らくこの人は目ざとくそれを発見して、嬉々として脅すように迫ってきていたかもしれない。
それぐらい本気の瞳だったのだ。変わるということを恐れるような、赦さないような瞳。



昔、骸は確かに言っていた。今の俺の本質が変わらないのならば僕は貴方をそれほど嫌いではありません。だから仕方ないですが従属しましょう、ボンゴレではなく貴方に、と。
それは彼の最大の優しさであり、ある意味裏切りでもあったのだろう。
それは俺に対する裏切りではなく、彼の、今まで歩んできた、輪廻する道への。
全ての生は苦痛と憎悪に満ちていて、それを廻り廻るのが六道というものであり、報われる幸せなど赦されることは考えてみれば一度もなかったのかもしれませんねと、言っていた。
だからこそ、ボンゴレというファミリーに属し、裏社会の住人とはいえ比較的幸せな生を歩んでいるということなのだろう、彼にとって見れば。
これは味わったことの無い幸せというものなのかもしれない。それが例え束の間のものだとしても。
そう考えてみれば、確かに時折目に見えてというわけでないが、何処となくうろたえた様な雰囲気をかもし出す時がある。それはきっとこの生温い生に戸惑い、どうしていいのだろうかと思考をめぐらしているからなのかも、しれない。
「……そう、です…ね。きっと俺は一生このままです。愚かな10代目…。沢田綱吉だったころと何ら変わりの無い、弱い弱い人間なんだと思います。」
「そこまで自虐性をもっていたとは存しませんでしたが、否定はしません。」
「…ちょっとぐらいしてください。まあとにかく、弱かった俺は手を取った。だから変わらずに弱い俺は、みんなの腕を掴みます。山本も獄寺くんもお兄さんも雲雀さんもランボも、コロネロやリボーンやクロームも。それから俺に出会ってくれた人たちの、腕。もちろん骸さんの腕だって、掴んでみせます。」



「だからね、骸さん。」
出来る限りの意識を込めて。
優しく笑えているだろうか、昔ほどの恐怖は全く無くなった、眼前のその人に。
「俺は貴方を、許します。」
「ええ、どうもありがとうございます。」
意図せず抱え込んだ、相も変わらずその背に幾多の重圧を背負うひと。
「貴方がそういうのであれば、とりあえずよいでしょう。」
にこりと笑った顔が一瞬見えたけれど、そのあと直に抱きしめられる。
それでも確かに笑みは気を許した少しだけ気の抜けたような、うそ臭さの欠片もないような顔だったから。
あぁ。
幻では、ないと。

 

 

 

*                    *                    *

 

 

 






まずはじめに、許されないんですよ僕はと、言った。
だから自分も許される許されないで振り分ければ許されないと、返した。
生まれたことを生まれ堕ちたことと後悔をしているその人。
だから自分は貴方が生まれてくれてよかったと、言った。
具体的には何処がよかったんですかこんな人間であるかももう分からない僕と出会えて、なんて強く。
だから自分は少なからず害は確かにあったけれどそれは結果てきに俺を変えてくれたからですと、少し弱く。
「ねえ骸さん、だから俺は許します。他の誰が貴方を許そうとしなくても、世界中が貴方を許さないんだとしても。」
「ええ、ええそうですね。十分ですよ。貴方一人が僕を許容してくれるのならば、それでまあまあいいほうでしょう。」
ねえ、つなよしくん。




小さく言ったのは10代目という自分を無理矢理囲う茨を全て焼き払った、本当の名前。
確かに聞こえたのは未だ強く優しく自分を抱きしめた骸が直傍で言葉にしたからなのだろう。
これでは許されたのは自分の方じゃないかと、おかしくなって笑えば骸も可笑しげに笑った。








 

 

 

 

 

 



抱え込んだ温もりは果たして虚像実像か。
(何度でも何度でも廻り廻るのだから終りはないよ、だから教えて終末の色を。)











(10年後の骸は気まぐれに幻で現れたりクロームで現れたり本体で現れたりをすればいいんじゃないかという欲望がこう。あとはボンゴレのボスとなったツナはやっぱり10代目という沢山を囲われた中に居るので、名前で呼ばれることを何よりも望んでいるんじゃないのかなって言う。……名前ネタは別に書きますので今回は此処までにしておきますが、触れるの。(笑)とにかく骸もツナもたまに会えばくだらない話とかそういうのも含め、会話とスキンシップあたりをしていればいいと思う。例えそれが悲しい話だとしても、会話をしていればいいな、と。)(070118//Hisaki)