きらめく世界、揺れる花、風はそよぎ、空は青く青く。
「…この前、千種と話したの」
「何を、と聞いてもいいんですね?」
「うん。千種と犬と、あと誰かもうひとりの誕生日が何時かって、教えてもらったの」
「君は、誕生日に拘るタイプなんですか?」
「誕生日…楽しい思い出が無いって言ったら、千種が。」
「千種、が?」
「犬と一緒に、めんどうくさいって言いながら、ケーキ、買ってきてくれた。」
「おやおや、犬も千種もとんだ口下手さんですね」
「だからね、骸様。」
貴方の生ま堕ちた日は、何時?
「そんな途方もない時間の始発点、覚えているわけ無いじゃないですか、僕の存在を理解したうえでそんなこと言い出すんですよクロームってば!酷い子だと思いません?ねえ綱吉君」
「酷いっていうか…無意識に言っただけだとおもうんだけど、なあ…」
公園に、ふたり。
学校帰りの彼と出くわしても、あの戦いの後から反応がびくりと震えるようなものではなくなったことは目に見えて解る事実だった。
多少は驚いたりもするものの何かが違うのだ。
まるで一歩近づいたみたいに、後ずさりばかりしていた足が一歩前に出る。
呼べば、震えるそれではなく生温いような声色で、恐る恐るだがしっかりと骸、と。
何かが変わったといえば確実に変化していて。
何かが変わっていないといえばその通り憎くてたまらない場所にだんだんと沈んでいく彼がそこにいて。
それでもそれでも、視界に入れてしまう。
どう、して。
「無意識…にしても、酷くないですか!」
「でも純粋に誕生日が気になっただけなんじゃない、の?さっきの話からだと…うーんと、クロームさん、は。骸のことも祝ってあげようとしたんだろ?だからきっと聞いたんだよ。多分、それだけ」
「ふうん、そうですか。」
「俺がそう思うだけだから!別にそんな鵜呑みにしなくても…、ああでも骸、ホントに誕生日何時なの?」
「知りません。」
「…知らない?」
「覚えてません。今生きているこの僕は、生まれた日など全て忘れてしまうぐらい、あの地獄のような実験の日々が僕の思考を埋め尽くしていましたし。この僕以前の生を受けたときのことも…誕生日なんて、そんなもの。遠すぎて覚えてなんかいませんよ」
くふ、と。乾いたような音が勝手に喉から出てしまう。
これは悲しいのか、自分自身を馬鹿にしたものだったのか、解らないけれど。
「…じゃあ、決めちゃえばいいじゃん」
「は?」
「いや、だから!お前が決めればいいんだよ。だって骸の誕生日なんだ。解らないならほら、自分が決めれば…いいだろ?」
「そんな無茶苦茶な…」
「ほら!骸、好きにしていいんだよ。お前、何時生まれたい!?」
こんなに近くに彼がいるのに、以前のような血生臭い匂いはしない。
それに何故だか心が弾んで、そんな自分を理解した上で馬鹿にするような笑みがもれそうになる。
それを、心に抱いてどうするというのだろう。
恨みと憎しみを彼の立場に押し付けながら、彼自身に対しては甘ったるいものを注ごうとでも言うのだろうか、心の奥底で叫ぶ僕の声は。
そんな器用な真似ができるわけもないと、わかっているのに?
「生まれたい、なんて。そんな大層なこと今ここで決めろと…?」
「ああもう深く考えないでさ、ぱぱっと浮んだ日とかでいいじゃん!そうだな…じゃあお前がここで生きている中で、今思い出す中で最高の日を誕生日にすればいいんだよ。なんか骸ならどんなに昔でも日付とか覚えてそうだし」
「どんな偏見なんですか、それは」
「へっ、偏見じゃないよ別にえーっと…う、うん褒めてるんだって!!」
「今更うさんくさいですね…、最高の、日…ですか。」
「う、うん。そう。」
「そうですねえ、じゃあ、決めました。」
「え?早い…な。いいの?」
「ええ。僕の誕生日は、」
君と出会った日にしましょう。
木洩れ日の中、信じられないほどびくびくしたいきもの。
それは死を拒み生に縋りつく無様な弱者のソレと天と地程の差を見せるようなものだったこと。
びくりと震えるくせに、瞳からだけは異常なまでの気配がしていたこと。
それは今思えば超直感に目覚める予兆だったのだろう、そんな瞳を携えた彼と、出逢った日。
「ほら、だってそうじゃないと今こうして君とも話をできてなんかいない、でしょう?戦いがなければ僕らは永遠にただの敵同士だった。だからあの日がきっと、僕が生まれた日ですよ。」
ふと上を見上げれば、空はただ広く広がりそして手を広げるかのように青く青く、きらめいていた。
(ああ、悪くは、ない。)
横でふるふると俯いたまま震えていた彼が、お前、恥ずかしい…!とゆるい拳で攻撃をしてくるのは時間の問題だろう。
柔らかく握り締めて恐らく羞恥故に震えている掌を覆うように握り締めれば、もっと楽しい反応をしてくれるのかと思い至って、自分のよりも小さな彼の手に、掌をのせた。
早く帰って報告したいとは思うが、今は此処を離れたくなかった。
「ありがとう、ボス」
校舎から出たところ直ぐに少しばかり見慣れてきたあの片目を覆われたあいつとそっくりな彼女が立ちすくんでいた。
気づいたけれど、何故だかどこか上機嫌に空を見上げていたので、ゆっくりと足を進める。
「骸様が、喜んでたわ」
「喜ぶ?」
「骸様の生まれた日は、6月9日よ。」
目を、開いた。
なんてことだ、まんまと騙されたのか、自分は。
何が知らないだ何が覚えていないだ、どんな同情の誘い方を、
「でも、ボスが言ったから、変えるのだって。無茶苦茶ね。」
「…は………っはは!!本当、無茶苦茶!馬鹿だね…!」
ああでも、どうでもいいか。
あの時のせられた掌に驚いて顔を上げたときに見えたあの少しだけ満たされたような骸の見たことも無い表情を思い出してそんな風に思ってしまった。
ああそうか、俺達はもう。
心の何処までも掌で触れ合って!
(思い返せばこれって両想いじゃないか恥ずかしい!)
(誰かもう一人→ランチアさん。ごめんなんだかんだでランチアさんに懐いている黒曜組ってすきなんです(笑))(そして両想い骸ツナが書きたかっただけです色々すいません、ぐだぐだしてて。結局こんなオチになりました(笑))(071108//Hisaki.S)
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