「なんなのこの束」
「何って仕事ですよ。君が直々に部下の不始末なんかに回らなければ昨日全て終わっていた仕事です。同盟との関係を悪化させたかったりボンゴレの有り金がどうにでもなっていいと思うのならば今すぐに振りかぶった後に僕に投げつけるといいですよ。特別に跡形も無く…そうですね、この屋敷ごと消し去って差し上げます」
「すいませんごめんなさい勘弁してくれそうしたら俺はお前を殴りつけるしかできないから」
「失礼ですね、冗談ですよ」
「目がマジだろ」
はああ、とあからさまなため息をついた後に、しぶしぶといった態度で書類の束、言い換えると重量感たっぷりの紙切れの山たちを受け取って慣れた手つきで書類のチェックとサインを始める。
さらさらと滑らせる音に加えて、時折ペンをインクに付けるぽちゃりという僅かな水音が立つその部屋でぼんやりと仕事ぶりを見ていると、おずおずと目線を此方にあげた彼と目が合った。
「……何?」
「別に」
「立ってて疲れないか?」
「大して」
「…用事とかあるわけ?」
「何も」
「えーと…座ってても別に…」
「結構」
回りくどい、正直に仕事がし辛いのだと口にすればいいのに彼はそれをしない。
だからこそこういった行動をとっている節は確かにあるのだが、そう思わずにはいられない。
「君って相変わらず馬鹿ですね、普通ならば時間があれば僅かにでも成長するものですが君が一歩成長するには10年じゃ足りないんですかね、一生必要ですか?ほんとに馬鹿ですよね」
「2度言うな。お前だって変わってないだろ、その嫌味っぽいところ」
「僕は丸くなりました!」
「誰がそんなことを!!」
「クロームがつい先日言ってましたよ、骸様、最近ちょっとだけ丸い、と!!」
「ちょっとが付いてる時点で大して変わってないことに気づけよ!」
と、此処まで突っ込み続けて漸く我に返ったらしく、もういい!と捨て台詞をはき捨てた後に、目の前でこうして眺めている存在自体を忘れたかのように一心不乱に仕事を進めていく。
時折、どうしてこんな夜に、だとか、畜生今日はゆっくり飲もうと思ってたのに、だとか愚痴としか思えないような言葉を独り言としてもらしながら、ボンゴレの名を綴っていく。
それをまた少し前と同じように眺めながら佇む。
丸くなった、のだろうか。自分は。
よくよく考えてみようとしても、何故だか無意識に避けようとしてしまう場所があり、更にそれがどこかと言えばあの血生臭い幼い狂気をかき集めてにたりと笑っていた時間なのだ。そこを思い出そうとするととたんに自責の念を感じてしまう。
殺すことが手段であり滅ぼすことが正義であり存在意義そのものが鉄臭い赤色の上にしかなかった、あのとき。
今目の前にすることができたのなら迷わずに馬鹿馬鹿しいと吐き捨て否定し続ける自信が有る。
そうなってしまったのは、あの炎に焦がされた瞬間からなのだろうか。
腹立たしいほどまっすぐでまっさらで、ただ欲も無く自分の信念だけを貫いて、最終的に敵である自分に同情して、どろどろに甘い情をかけて。
ああそうか、これは、絆されたと言うのだろうか。
無意識に術をかけて、無意識に接点を作ろうだなんて女々しいまねをして。
丸くなったなんてレベルじゃない。自分はただ単に、馬鹿になっただけだったのだろう。
そんな結果に、10年かけて漸く到達した瞬間、術をとく切欠として準備していた懐中時計がわざとらしいほどかちりと秒針を揺らす音が響く。
「沢田綱吉」
「何!?まだなんか仕事あるとかいうのか!?」
「違う、こっちを向け」
「あ、いだだだ!!ちょ、お前頭を掴むな…!!」
見た目に反して驚くほど柔らかい上に質量のある髪の毛に埋もれた頭部をがしりと掴んで、ぐんと顔を近づければ、あからさまに動揺した表情がよく見えた。
ぐるぐると動く眼球をみてくすりと笑いそうになってしまうのをこらえて、何とか言葉を紡ぐ。
「覚悟するといい、去年気づかなかったことについさっき気づいた僕に、今年、おとしてやる」
「は?」
「君は、単なる標的だと、そういう意味ですよ」
ぱっと手を離すと同時にぱしりと瞬きを意識的にして、術をとく。
扉に向かう背中に「あれ!?書類がない!!?」と狼狽する声を聞いていい気味だと口元が緩んだ。
無意識のなんと恐ろしいことか。無意識下に働くボンゴレの超直感を馬鹿にしていたが、今後少しだけ改めるとしようか。
わざわざボンゴレ敷地内全体に力を使って、年越しのこのギリギリ、仕事があってボスは引きこもり状態。誰も、部屋に入ることは許されない。
会えるのは"仕事の報告"にきた六道骸だけ。
「馬鹿馬鹿しい」
ばたんと、ボンゴレの頂点の存在するその部屋の扉を閉めたところで騙したな骸、だとか悔しげな絶叫がきこえた。
恐らく、術の解けたことによりそろそろ此処に忠犬がやってくるだろう。
そうしてやっと気付くのだ。
僕の
馬鹿馬鹿しい独占欲に。
年の瀬も始まりのその瞬間も、全部全部僕のもの!
(「明けましておめでとうございます10代目!よっしゃ俺が一番ですね!!」「…ああ…そういうこと…そういうことか…、ごめん獄寺君一番じゃないよ…それはなんか…うん無理だったみたいだね…」「そっ…そんな!!!どういうことですか10代目ー!!!」「今は聞かないで、俺も気付いて結構動揺してるんだ…うん」)
(年越しも年明けも全部自分が一番にしたかった無意識でツナだいすきツンツン骸と、骸の予想通り最後の捨て台詞(笑)と獄寺云々でうっすら気付いたボスツナ。)(くっついてません。むしろこの直後から骸の無意識、ではなく意識アリの本格的なアタックが始まります(笑))(よいお年を!そしてあけおめ!もごたまぜサーセンっした!)(071231&080101//Hisaki.S)
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