>>たわごと。

 

塗りたくった様な、まっくらな、闇。漆黒。それ以外に、何と表現をしたらよいのだろうと、思うほどの。
歩く度にぴちゃりと、赤い水が音を立てるような、殺人現場と言うに相応しい場所で、兄弟はただ、ただ其の身を守る為だけに手にした武器をこの部屋と同じようにこの家と同じように赤く赤く染めて、立っていた。ただ立っていた。
「江夜君、戮君。遅く、なりました。残念ながら恭哉は、もう間に合わない。死んだよ。」
「そう」「ちゃんと死ねたのか?」
「えぇ、彼はちゃんと、為すべき事をことをしました。それで、2人は此方に。僕に、付いて来ます?」
「あなたがそれでいいのなら。許されのならば。」「あんたがそれでいいんだったら。許されるなら。」



「とかだったよねぇ、新良さんとあったの」
ふふ、と笑みを浮かべながら、今は真っ白な壁と真っ白な天井の殺伐とした部屋に座り込んで。きっちりシンメトリーを保つ2人にしては大き過ぎるのではないかと思われそうな部屋に、今日も双子は居た。
「あぁ、血塗れでしかもあいつらまでぶっ殺してそんでこっち来るもんなー。俺ちょうびびった。」
「戮らしくもなく一瞬硬直してたもんね」
「江夜は江夜で俺の手ぇ握って離さなかったけどな。」
「だって、ねぇ?」
「言いたい事は何となく分かるけどな。……でも悪人ぽかったしな、新良さん。」
「まぁ、本当にその通りだよね。滅茶苦茶怖かったし…。」
「そうそう、だってアレ、すっげーよな。あの人返り血浴びて無いのに、周りは真っ赤な血塗れ!」
「そりゃ、俺も戮も驚いちゃうね。」
あはは、あはははと笑う、双子は。呑気に、最近買ったリビングテーブル(ガラスの、下にポケットが付いた形のもの。主に戮が駄々をこねたので江夜がしぶしぶ買ったに等しい。)にアイスコーヒーを並べて雑談を繰り返す。――そこで静かに、気配すら希薄なままで殺意をしとしとと募らせる人物にすら気付くことも無く、愉快に笑った。
「…………君たち其処になおれ…正座でなおれ…」
「………」
「………………え、と…新良、さん。」
開け放していた部屋入り口の扉が悪かったな、と心中冷静に思考を働かせる江夜とは正反対なまでに、びくりと方を揺らしてからそろそろと振り返り、その顔を確認してから、戮の方が口を開いた。
「よ、よう新良さんおかえり……アメリカどうだった?えっと……すっきりばっちり殺した?」
「えぇ、楽しく依頼を成功させて楽しくばっさばさと殺して、帰って来ましたよ、戮?」
「そ、そうか、よかったな!あはは!」
「そうだね、良かったですね新良さん。…嫌だな、如何してそんな微妙な顔つきで立ったままなんですか?せめて部屋に入って、座るとか…」
「けど、それがどうしてか唐突に、すっきりしなくなったんですよ、何ででしょう、ね?」
「さ、さぁ…俺解んねぇけど…?」
「そうですか、戮でもわからない…心当たりといえば大切に育ててあげた可愛い可愛い双子が、その恩人に対するなんだか妙な台詞を聞いたからですかね?」
「………(や、やばい…怒ってる…!)」
「……そ、そうです、か?(これは…ちょっと、俺も、無理かな…)」






後日。


双子、通常よりも派手にぶち殺すところを見かけられる。

(雑音叙情詩)

 

 

 

>>誰かの為に殺してゆくよ。君の為に殺してゆくよ。

 


「それじゃぁ貴方は俺を悪だと言うの?」
「決まっているだろう…!人を刺し殺しておいて、何処が善だ!ありえない!」
「でもそれは、貴方の中の定義にしか、過ぎないでしょう?」
「な…ッ!!」
「ごめんなさい、俺と、そして最愛の、血を分けた双子の兄の定義はね、俺達と、それから恩人ひとり。それだけが、世界。


あとは皆、虫ケラにも及ばない、塵みたいなものなんだ。」







舞う、血飛沫。



(雑音叙情詩)

 

 

 

>>「厄年?」「そうそう。はい、お参り行くよ、戮。」

 

掌にぽんと渡された。
「………なんだ、お守りか?」
「うん、そう。おそろい。」
「………なんでおそろいにする必要があるんだよ…!お前が違うの買えよ!」
「だって今年、厄年だからね。仕様が無いでしょ、二人とも本厄。あはは、双子って微妙だね!」


(雑音叙情詩)

 

 

 

>>A SLOPE of KARMA

 

少年は、ひとりだった。

物心付いた頃といえば、空腹以外覚えは無い。
その空腹はとてもとても苦しくて。
だからこそ、少年は盗むということを知りそして覚えた。
純粋すぎるその心は悪事を悪事ではなく今を生き抜くための行為として、覚えた。
疾走する少年を荒み汚れ、でっぷり丸々と太った大人たちが捕まえることなど出来る筈も無く
そうして少年は「風」と揶揄された。

生き抜くための盗みでも空腹は満たされず、それでも生きようとする己に言い聞かせるように考える。
天国も地獄さえも、この薄汚れた世界よりもマシなら、喜んで行こう。
人は皆平等などと唄ったのはどこのペテン師だろうか。そんなことは在りもせず、在る筈すらないのだから。

ある日擦れ違った行列の中、ぽつりと色彩を失いそうな程の白い少女を、見つけた。
真っ白な、穢れを知らぬ無垢な肌に融けてしまいそうな白いワンピース。太陽のようにきらきらと光る金髪が風にふわりと揺れて、駆ける足が止まった。
俯きがちに歩く少女はそうだ、きっと遠い町から売られてきた少女。
似合わぬ小奇麗な金持ちの家の門をくぐるのを見届けてから、形振り構わず叫びそして走った。
その美しい肌に触れるのだろう、穢れた手。
少年には力すらなく、少女に思想など、与えられず。
あぁ、と嘆く。神様は何故、僕等だけを愛してはくれないのだろうかと。

夕暮れ。闇に紛れようとする街、少年は剣を盗んだ。
その体に不釣合いなほどの大きくそして重たい剣を引きずる姿は、風と呼ぶには悲し過ぎた。
それでも。それでも。
少年は登る。夜の闇に紛れるカルマの坂を、登る。

身に余る怒りと憎しみを込めた切っ先を払う。
ざくざくと肉を裂く感触。勢いよく溢れ出る赤くて暖かな血。びしゃりと、蹲る、動くことを忘れてしまった成れの果て。
あぁこれで幾人殺しただろう。
簡単に死んでしまう、脆くて容易い人間というものに何故だか笑みが浮ぶ。
少女が居ない。何処にいる?
赤い屋敷を風は駆ける。

ころしてと、懇願する。
壊された少女。
一寸前にただの肉と成り果てた金持ちはもう動かない。
どうして?君はもう自由なのに。ねぇ、一緒に外へ行こう?
いいえ、ころして。
どうして?
だってわたしはもうこわされたのよ。はんぱにこわされたままじゃかなしすぎる、つらすぎる。ねぇあなた、おねがいよ。わたしをころしてちょうだい。よごれきったわたしを、かみさまのもとへおくってちょうだい。
あぁ、その神様は何故僕等だけを愛してくれはしないのだろう。
涙を流して、少年が握る銀の刃が柔肌をぐちゃりと、貫いた。
最後の少女は、笑っていた?
覚えていない。

只、今は空腹。
あの一太刀の前に流した涙はどうやって出すのだろう、忘れてしまった少年は、ただ空腹を覚えてた。
あぁ、今日も生きなくちゃ。生きるためには、また風にならなくちゃ。
痛いのは、傷ついた体じゃなくて、心なのだと、少年は、確かに、感じていたから。
ただ今は、空腹と
愛してくれない神様と。
さよならと呟いた少女。

それだけ。

(オリジナルパロ。)

 

 

 

>>叫びます。だから、呼んでください。

 


「ぐ、かはっ…!!!」
―――…やられた!
そう率直に思ってもこれは許されるはずだと思いたい。いや、思わなければやってられないという話だ。
「ンだよ…案外いいパンチ……だな、死に掛け、!」
「    」
「あぁ?…畜生、もう死んだかよ、お見舞いしてやろうと思った、の……っ…」
ぱくぱくと口を開いて何かを言うか叫ぶかしようとしたらしいターゲットの物言わぬ塊を見つめて悪態をついていたまさに其の時、丁度良く鳩尾に入った――俗に言う火事場の馬鹿力はこんなものを言うのではないだろうかとも思えてくる――最後の一撃は、見事に体内の臓器を破壊してくれたらしい。
「…う、わ…俺の血……久しぶりに、見たな…」
つい先月辺り、片割れであり双子の弟である江夜の血液はしかと目にしたが、自身の血液などは滅多なことでは見なかった記憶がある。流していたとしても、きっと目に見えない部位に傷が付いた位。
「はっ……やーべ、マジで苦しいかもしんねぇなー…」
はは、と乾いた笑いが漏れてくる。うっかり視界までぼんやりと霞がかかってくるあたり、相当弱気になってしまう、この性格ならば。

あぁ声が、聞きたいよ。


「      」



だから弱い俺は、君の名前をよんでも、いいだろうか。
そしたらまた、縋るようでほんの少し癪だけれど、君は、また。

この名を呼んでくれるから。

(雑音叙情詩)