「…っ………」
悪い、癖だ。 そんな事を暢気に考えながらぼたぼたと流れ出る生きてる証に触れた。
トランキライザー
皆城総士の部屋は、何もない。気まぐれでやってきてみたのは良いものの、この部屋は何もすることがなくなるのだ。 「…一騎?」 「あ、いや…ちょっと来てみただけだけど……駄目?」 「いや…もう少しで、仕事も終わる。入れ。」 「うん、お邪魔…します。」
そんな会話をしたのは確か、20分前。 イコール、20分間何をして時間をつぶすかといえば、ひたすらじーっと、ぼーっと。考え込むしかなかった。 「総士、タオル。」 「…は?……って一騎!お前…!!」 行き成りの発言に訝しげな顔をして振り向いたのは良いものの、生憎呼んだ相手は唇からぼたぼたと元気に出血中。 「そりゃ、誰でも驚くよな。」 「妙なところで冷静に判断をしているな!」 「う、わ!揺するなよ、早く、血塗れになる!!」 「もう既にお前の服が血塗れだ!!」 この出血量だと、血溜なんかもできそうだなぁ、と妙なところで冷静に思考回路を動かしながら、ばたばたとタオル探しに行った総士を見送る。
ほんの少しだけ、仕事の邪魔をして悪かったなと頭のどこかで呟きながら。
「でも俺暇してたし…いいよな、別に……。……ぶっ、」 「下を向くな、垂れる。」 「……………!!!」 「あぁ、鼻まで塞いでたか?」 「っ......すごい勢いで顔面にバスタオル押し付けるなよ…!」 「仕方ないだろう、此れしか今はないんだから。」
タオルを唇に押さえつけたままの彼の溜め息を耳に入れつつ、視線はずっと下を向いていた。
じわじわと血の色に染まりゆく様を、じっと。
「で。何を考えてたんだ。」 「え!?…や、違っ…か、乾燥してただけだよ。切れた、だけ。」 「…嘘だな。一騎は真面目に考え込むと唇を噛む癖が在る。……あの時も、そうだったろ。」 「っ……」 「下手に誤魔化すのが出来ないのも、成長していないな。」 「五月蝿い…。」 喋りづらい。 「で、如何した?」 「……戦う、こと…。」 喋りづらい。とても。
「学校で、習ったろ。歴史……とか。」 「あぁ。」 「戦争とか、も。」 「…そうだな。」
とても、薄暗いイロ。
「戦争では、皆、死んでいく。」
でもひとつだけ、違うイロ。
「それは、今俺達が味わっていること…で、」
昔は在って、今はもう無い、イロ。
「それでも違うんだ」 「俺達は色を残して、死ねない…」 「血を流して死ぬようなことすら、できないんだ…っ!!!」
昔。 総士を苦しませるあの日の前までは、血液という物体の“色”をとても美しいと思っていた。 空の色、海の色、怪我をして流した赤は、決して今まで見たことの無いような鮮やかで綺麗なイロだった。
「俺達は同化されて、消されていくしか……それしか道は…ないんだろっ!!?」 「一騎っ…!!!」
まるで。 何処か別の空間から、やっと抜け出せたような間隔が、じっとりとこびりついている。 何時の間にか出血は止まり、痛みが唇に少し残るだけ。
「総……士…」 「…大丈夫だ…。」 ぼそりと呟いて俺を抱きしめたまま肩辺りから聞こえる声。温かいのに。
「それが嫌ならば、僕がお前を
殺してあげる。」
やけに冷たく哀しい言葉。 涙を流したまま、総士がそう、言った。 |
あぁ、病んでる。(笑)色々と痛いもの書いてすいません、そんな俺が一番病んでいる。緋咲です。
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