綺麗な金色は褐色の肌によく映える。
そしてその中心で、揺ぎ無い瞳は昨日も今日も、そしてこれから遥か先をも。
見つめるのだろう。


水上の要塞と言っても過言ではないのだろう。
水に囲まれた都市は今日もきらきらと水飛沫が舞い落ちる。
そんな景色を一望できるのはやはり皇帝陛下の玉座がぽつ、と置いてある広いあの謁見室。
威圧感すら感じる巨大な額縁に描かれるそれはまるで絵画のように。
静かに静かに、水は流れ落ちる。
「なんだ、ルーク。まーたレプリカレプリカって虐められたのか?」
「俺がそこいらじゅうで虐められてるみたいに、言わないで下さい。」
そうかそうかと楽しげに喉をくくく、と言わせて笑う皇帝陛下。
まっすぐすぎて、とても、苦手だと思う人物。ピオニー・ウパラ・マルクト9世。
あの人はまぁ、良い人なんだぞとか、性根が腐っている訳ではないんですけどねぇ、だとか。使えるべき人間から聞く評判はそこそこ印象的に悪いような気もするが、そういう表情はさして悪くも無く。
あぁ、この人は頂きに立つべく生まれた人間なのだと。知った。

「それで、どうかしたのか?」
「…ブウサギ、は。」
「ん?あぁ、アイツのことか。お前とそっくりだぞ。着いて来い、俺も大分此処でぼんやりするのも飽きたからな。」
部下たちが居る手前、堂々とそんなことを言い出す姿にギョッとはしたが、控えめにくすくすと笑う姿を見るとこれは単に日常的なものなのかもしれない。
「どうしたルーク、行くぞ。」
「あ、はい…!」
大好きなブウサギたちに逢いに行くのはやはり何時でも楽しみらしい。ウキウキと足を薦めながら、足を動かさない俺を見て急かすように問い掛けて。
追いつけば追いついたでまるで子供にそうするように頭をぐしゃぐしゃとするものだから、如何したら良いのか解らないまま、されるがまま皇帝陛下の横を歩いた。


ブウサギルークは孤立している。
世話係に任命されてしまったガイも、たまにふと思い出したように言うジェイドも、そして謁見に来るたびにそんな事を言う陛下も。
皆口をそろえてそういうのだ。幾ら周りが手を尽くしてもどうしようもなく懐いてはくれないのだと。そしてその、独りでぽつりと部屋の端に存在する姿はまるで「ルーク」に似ていると。
一体何処がどう似ているのか、最初に聞いたときはどこかイラっとしたので、興味本位で覗いてみた。
ティアとナタリア、それにアニスが良く懐くネフリーに気を取られている中だった。
「やっぱり、ですねぇ。」
「うーん……そりゃまぁ、短期間じゃ変わらない、か。」
「何苦笑してんだよガイ。」
「ガイラルディア、さっさとルーク同士を引き合わせろ」
「…え?じゃぁ、あれがルークですか?」
流れ落ちる水が良く見えるその一等席でじ、と此方を見つめる二つの瞳。明らかに拒絶するような、警戒するようなその姿こそがルーク。
そっと近づけば如何してかこちらにととと、と寄って、ぶ、とどこか可愛らしげに鳴く姿に訳の解らない仲間意識を抱いてしまったのが、始まりだった。


「ルーク。」
自分の名前を自分で呼ぶことは少々こそばゆいが、それでも何処か心地よく。
「お、何だ?俺が横に居ても抵抗なく来るようになったじゃないか。いやー、お前のお陰だな、ルーク。」
「そんな、俺は別に何も…」
「お前が居るだけでいいんだろう、こいつはな。まったくそっくりだ」
笑いながら、しゃがみ込んでなぁルークと無謀にもブウサギに同意を求める陛下の姿に、つい、口が動きそうになってしまう。
違う、と。
そんな綺麗な理由で、俺は動いてはいないのだと。
「ルーク」と同じ「ルーク」の存在が此処にあると確かめて、こうしていれば生き残る「ルーク」を見つけるたびに俺が居なくなった後でも誰かが思い出して、そして俺が居たということを認めてくれるんじゃないか、なんて。
「そっくり、なんかじゃ…。」
「いや、そっくりだぞ。無理して独りぼっちになりたがったりするところなんか、特にな。」
「っ…誰が好きで、独りになんか!」
「なってるだろう。ジェイドやガイラルディアは案外聡いからな、どうだかは知らん。それでもお前は、そのまま消えちまうってことを誰にも言わないように、知られないようにと。隠すように自分を抱えて護るように、選んで独りになっているだろう。」
決して、目線は合わせない。視線が交差することを彼は許さない。
そうだ、それは、自分が望んでしていることだから。彼はその、愚かな俺の拒絶を許さないと言わんばかりに背中を向けたまま良く響く低音で、語るように喋る。
「…それじゃ、俺が形振り構わずに泣き付いたとしたら。逃げることも怖いから、泣き付いたとしたら。陛下は、許してくれるんですか。」
「許すさ。」
なぁルーク、とブウサギルークの頭をひとなでして立ち上がり、此方に目線を向ける。
高みから彼の領土に住まう国民を統べる、象徴の如し美しい青い瞳が此方に向けられる。
「前にも言ったがな、ルーク。俺は国民を護れねばならん。所詮俺にはそれしか出来ないからな。だがそのために人を独り犠牲にするなんて、世界は狂ってると思うさ。そんな俺に出来ることはなんだ?逃げ出す選ばれた生贄を追いかけることか?違うだろう、そんなことをするのはもっと狂った世界の人間だ。俺に出来ることは、なぁルーク。逃げ出したくても逃げ出せない、泣けない子供に、精々休める場所と泣ける場所を与えてやることぐらいだ。」


ぼろぼろと流れる涙を拭う指を拒絶せずに、しゃくりあげるせいで上手く喋れない自分を叱咤しながら、まっすぐで、優しすぎる彼に毒まみれの小さな棘を残す。
「それじゃぁ陛下は俺を忘れずに、精々死んで消える俺の存在を悔いてください。」

願いは、存在を忘れられないでと。

 

 

 









夢を見ていたかった贄の子の願い。
(けれど夢を見ることですら、夢のまた夢でしかない。)

 

 

 

 

(本命カプほど気合が無駄に空回りするほど入るから、上手く書ききれないよね、という話。ピオルクは一番残酷だと思います。てっぺんとどんぞこの、届かぬ手の伸ばしあい。腕は届かずに、触れることもできない。)(060622)