喚き散らしてみたら何か変わっただろうか。
叫んで声を枯らして喉を潰して、そしたら何かが変わっただろうか。
ぐちゃぐちゃな顔で、泣いて泣いて。
きっと、何も変わらない。
世界は優しくなんて、ないのだから。
それでも願い、請う。

おれは、せかいが、ほしいのだと。



ぐらぐらと世界が揺れるような気がして、ふと立ち止まった。
思えば体内の何処かが霞がかったように、思考がうまくはたらかない。
「そうだな、それじゃ………、ルーク?」
「あ、はい?」
なんですか、陛下。
そう口にする前に、何故か膝がかくんと抜けるようにして。
つられるように意識が暗がりに引き摺られる。
あぁ、なんてことだ。
皆の目が明らかにこの馬鹿野郎何しているんだ、そんなことを意味しているような気がして、ちょっとやってしまった感が残る。
報告に来たグランコクマ、滝の音をBGMに、俺はひやりとした床へとダイヴした。








ふわりと、えりあしだけ跳ねた髪を舞わせたルークがばたんと倒れた。
「……って、オイオイ。」
ジェイドではないが、老体には少々キツイかもしれないな、などと何処かで思いながら玉座を離れ、綺麗なまでにびたんと倒れたルークを抱え上げる。
一同は些か動揺していたが、すたすたと足を進めた背中に向かって一番最初にティアが慌てて声を上げる。
「ルーク!?陛下、あの…ルークは?」
「ん?あぁ、凄い熱だな。コイツ、何かしたのか?」
「いえ、私が思い至るような、ことは…」
「ジェイド、お前、来い。すまんが報告は後だ。おい、あいつらどっかに案内してやれ」
「仕方が無いですね…、陛下、貴方私が死体専門だってことを忘れていませんか。」
了解いたしました、と機械的な返事を聞き、(特にガイラルディアが)心配を露にしている中、予測していたかのように名前を呼ぶと同時に後ろを歩く足音がひとつ。
「だからって生きた人間見れないわけじゃねぇだろ。とりあえず、俺の部屋だ。」
「わかりましたから、陛下。その顔だけはどうにかしてくださいね。」
ルークが目を醒ましたら、驚いて叫びだしそうです。
軽口を叩いたジェイドにようやく苦笑を向けて、冷ややかな声色を無理矢理元に戻そうとする。
心はこんなにも驚いて、動揺していたのに。表面上は驚くほど冷たかったのだろう。
「わかってる。…馬鹿だな。死ねだなんて、言ったくせに。俺は心配しているんだ。一丁前に。」
「それは私も、…ええ。不本意ながら同意します、ね。」
皮肉を込めて笑ういい大人たちを見て、僅かに部屋の前に立つメイドがびくりとしていたが、それすら気にならない。
行儀作法なんかそ知らぬふりをして、焦りをこめて部屋のドアを蹴破った。


胡散臭い親友の診断結果は、何とも辛辣だった。
「……音素、か。」
「ええ。先日の件により、不安定がちだったルークの音素乖離がさらに進んだのでしょう。慌てて乖離する音素に身体が追いつ
けないままこうして具合が悪くなった、と。此処からはさらに憶測になりますが、その不安定さから軽い風邪のような症状が現れるかもしれません。何時も腹部が無防備なので、そこからやられても不思議はないでしょう。」
「無理をしていた…というわけではないのか。」
「無理、は。…恐らく、ルークにとって、今此処に立つことすら無理をしているということになるでしょう。このように症状が出るのは唐突なことでしょうけれど。」
「そう、…だな。死ねと、言われているんだ。言葉で空気で視線で、世界全てから、己を潰して他を生かせ、と。」
それはどれ位の重圧なのだろう。
計り知れないような重み、世界ひとつ分のソレは、皇帝という位置すら馬鹿らしく見えるほどのものなのだろう。
想像することなら安くて簡単すぎて、安易なこと。実際に背負う者がどの様に苦しむのか、結局は他人分類される自分たちには一生解らないのだろう。
「…自分を殺したいと思うのは何度目だろう、な。」
「私は常に一秒前の自分を殺したいですよ…。まっ、先ずはルークをアクゼリュスで突き放した自分を優先順位1位で殺したいですね。」
不謹慎すぎる会話に錯覚を覚えるのは、多分、幼い頃、雪の降る町。
かの人が消えた町。
かの人を殺した子供。
何もできずに罵る子供。
自分を、殺したいと、願う。
「……私は、行きます。自由奔放な何処かの皇帝のお蔭で、ウチのパーティーメンバーが恐らく動揺の真っ只中だと思いますのでね。」
「お、おい。ルークは、何もしなくて…」
「してはいけませんよ。私に、それは許されない。」
許される人間など、いない。何処にも、いないのだ。彼を許すために相手をするのは、だって世界なのだから。


ひゅう、と。
酸素を大きく取り込むような音がする。
「…………あ、…?」
「起きたか?ルーク。」
暫くの間、呆然と高い天井を眺めていた視線が動いて、首を動かしただけのルークと視線が合う。
ジェイドの憶測どおり、少々風邪に近しい症状が出ているのかもしれない、少しだけ目が虚ろいで熱に浮かされた子供のように見える。
「もうすぐ氷を持ってこさせるからな。まだ寝ていろ。」
小さく何かが聞こえたから、恐らくルークが何かを答えたのだろう。
それはまるで遥か遠い場所から何かを言うように聞こえたものだから、また心臓が、飛びそうになる。
死ぬことを知っただけであれだけ動揺できるのに。
これ以上、彼の前でも動揺しろと、世界は言うのだろうか。
「そうだルーク、欲しいものをやろう。何がいい?暖かい布団とか、旨いメシか?」
「…せかい……」
「ん?」
自分を安心させたいだけにかけた問いに、今度はちゃんと、ぽつりと吐いた言葉が聞こえる。
彼の欲しがるもの、せかい。
それは決して聞いてはいけなかったのだ。
だから、今すぐ耳を塞がなければいけない。
「だれもなかない、せかい…」
聞いては、いけない。
「みんなが、わらう、せかい」

消えそうな笑顔で。
そんなことを、たった七つの子供は、言うのだ。
「…馬鹿だなぁ。そんなものは無茶だ。これから俺は泣き続けるんだからな。」

まるでお前を呼ぶように。












殺されたがりの愚者は哭く。
(それはそう、ずっとずっと死ぬまでこの命が果てるまで。)

 

 

(暫く本気で文章を書いていなかったのでウパラが書き辛かった罠。否似ウパラですまそ。ニセモノじゃぁああ…)(そして病
ネタ好きですいません。本能には抗えないんです)(無いものねだりで我儘で欲しがりなルーク、与えられるのは虚無と優しさだけのウパラ。そんな感じを書きたかったのですよ。)(061005)