「よしルーク。行くか!」
「はい…?」
何処に、と訪ねる前に、グランコクマに滞在中の俺は、皇帝陛下の手により拉致された。







今頃グランコクマの城内ではどれぐらい大きな騒ぎになっているだろうか、帰ったらジェイドあたりにこっぴどく叱られてガイ上がりが暑苦しいまでに心配して女性陣からは少し心配した気配と割りと冷めた瞳が帰ってくるのだろうか、あぁアニスあたりにはお土産がないのかと訪ねられそうだな、という、現実逃避をしている。
現在、銀世界の中、ぽつりと人影がふたつ。
「おお、ルーク!子供たちがいないから使い放題だな!よし、雪合戦でもやるか!俺とルークは同じチームだ!」
「それじゃあそもそも合戦になりません。ていうか2人だけだと雪合戦は成り立たないと思うんですけど陛下。」
「なんだなんだ、心なしか酷いなルーク。何か不満でもあるのか?ん?」
「この、現状が、不満ですよ!何で俺はこんなところに拉致されてるんですか!!」
「そんなの決まっているだろう、俺が着たかったから。」
「アンタの我儘か!!」
眼前でふんぞり返る皇帝陛下をいっそ殴って雪に沈めたいところだが、戦慄く拳をそっと解いて自分を落ち着けようと必死になる。
殴らなかっ。俺、理不尽に八つ当たりしなかったよティア、俺成長したんだ。
「ルークも贅沢だなぁ、俺と年越しだぞ!」
「俺は平穏にぬくぬくとグランコクマ領内で具体的に言えばさっきまでいた城内の客室で幸せに包まれて年を越したかったですよ!」
「なんだ?寒いのか?そんなに厚着してるのに可笑しいな…これ着るか?」
「結構です、大丈夫です。」
何時も以上に会話の成り立たないこの状況の打開策が欲しい。
いっそここでジェイドがいてくれたらなんと嬉しいか。
色んな意味での寒さで思考回路が危機に陥りかけているがともかく此処は冷静になることが最も大切なことなのだろうと、最近理解した陛下の扱い方を思い出してみる。
思えば自分はこの人物に振り回されてばかりで、なんだかわけが解らない。
けれどそれが悪意ではなく、むしろ好意に近いのではないかと近頃思えるようになってきたので、そこまで邪険に扱うことはしなくなってきた。
最初に会った苦手意識も、ようやく、薄れてきた。

 

だからといって、慣れたわけでは、ない。
行き成り手を引かれて、あらかじめ準備しておいたらしい戦艦(突っ込むべきはきっとこんなことで戦艦を出すなというところなのだろうが、どうもそれを言うタイミングを逃してしまった)に押し込まれ、気付けば銀世界ケテルブルクに立っていた。
そんな突拍子も無い上に理解しがたい行動に対する順応力はきっと長年付き合ってきたジェイドぐらいにしか付いていないのではないだろうか。自分にはどうも、無茶な話だった。
そもそもまず最初に理由を聞いていないのだ。
「陛下、陛下。聞いてください」
「ん?どうしたルーク。」
まるで子供のようにはしゃぎながら、普段外せないハメを外しているのだろう。幼き頃から皇帝としての道を確立されていたという、利用され続けた人間。
無邪気に雪玉を転がしながら、何時の間にやら雪ダルマを作り始めている。
「陛下はどうして俺を連れてきたんですか。年越しなんて、…城でなんかやるとか、あるでしょう?」
「んーまあ、無いとはいえないな。あるぞ、ばっちり。」
決して此方を見ないまま、ごろごろと、雪玉が大きくなる。まるでひとの生き様を早送りで見ているみたいに。
そう考えてみると俺は本当に雪みたいになるのだろうか、陛下や、それからティアやジェイドやガイやナタリアやアニスみたいに、骨を残して消えることは出来ない。
イオンのように、さらさらと、跡を残さずに消えてしまう。
雪が溶けて水となり、その水もまた、空気の中に融けて消えてしまうように。
こんなことを考えているせいか、都合よく背を向けている陛下に少しだけ感謝してしまう。
今の俺はきっととてつもなく情けない顔をしているのだろう。

 

まるで、泣き出しそうな子供みたいな。

 

 

 

「…そらルーク。お前も早く作れ。」
「ぶッ…!!」
堕ちかけた思考、それを遮るように全速力で小さな雪の塊が飛んでくる。
投球者は言わずもがな、グランコクマの皇帝陛下だ。
「陛下、陛下アンタ何するんですが!顔は無防備なんですよ、寒いんですよタダでさえ!!」
「ははは!注意力散漫なお前が悪いなルーク!そら、はやくお前も雪ダルマを作れ。俺のと並べられないだろう。」
「何処までも自由奔放ですよね陛下って…」
ジェイドの苦労を少しばかり味わったような気分になって、ごろごろと雪を、陛下に習って転がしだす。
けれど不器用なそれに、少しだけ堪えてその後あっさりと噴出した。
「ははは!お前…ルーク、不器用だな!そんなのだと、サフィールのよりも不器用なのが出来そうだ!」
「ちょ、陛下。俺少なくともディストよりはマトモなもの作りますよ!これは失敗作です!!」
子供じみた笑みに、子供じみた反応で返す。
バチカルに雪が降る事は一度たりとも無く、雪遊びというものをしたのはこの旅、初めてケテルブルクに訪れた時。
アニスと本気で雪合戦をしたときだけだ。
だから、小さな雪球を作る作業ならまだしも、そこまで巨大サイズの雪玉を作ったことは無い。無茶な話だ。
それでも、必死になって大きなものを作ろうと奔走している自分がいる。
きっと安心したいのだろう、少しでも長く、消えないものを作りたくて。
「はは、ルーク、初心者のお前にコツを教えてやろう!同じ方向に転がしていても駄目なんだぞ!」
「そっ……そういうことは、早く言ってください!!」
ごろごろと、転がして。
此処にも居たと、少しでも主張できるように、大きな雪ダルマを。

 

 

 

 

 

やがて、静かに朝日が昇る。
照らされた二つの大きすぎる雪ダルマと、いい年して本気になった皇帝陛下を相手にする英雄予定のレプリカドール。
ロマンチックの欠片も無く、本気の雪合戦をしながら。
「よしルーク!罰ゲームを今決めた!」
「なん、ですかっ!!」
「うおっ…、本気だなお前…!大人気ないぞ!」
「陛下こそいい年して何本気になってるんですか、36歳!」
「お前何処で聞いた俺の歳!!」
「そんなことはどうでもいいんですよ、なんですか罰ゲームって!!」
そこで、一瞬の油断を突いたところに雪玉が2度目の顔面衝突をする。
「来年…いや、今年だな。それからその次もそのまた次も、俺と年明けを此処で雪ダルマ作って越す!旨いもん食ってグータラしないで、本気の雪合戦も含めて、だ!!」


 

 

 

 

消えて戻らないと、
溶けて消えてしまう約束をしよう。

(雪に埋もれて笑う君が今にも消えてしまいそうだから、怖くて。)

 

 





「…無茶、言わないで下さいよ陛下。」
約束を、果たせないこと。誰よりも自分が知っている。きっと貴方も知っている。

悔しいから、とりあえずは、雪玉を力いっぱい投げ返した。

 

 

 

 

 

 

さあ。もう、笑うよ。

 

 

(BGM**落日(東京事変))(あけました。おめでとう御座います。年明け早々年賀小説になるのだろうかこれはまあいいやとりあえず年賀小説、と、称して。……しょっぱなこれか!(笑))(アビスでダントツ報われないどうしようもない救いの無いカプはピオルクだと信じて疑わない緋咲です。本命がピオルクの緋咲です。……こんな輩ですが今年ももそもそやってくので、お願いします。いや、本当に。)(070101)