忘れられた 想いが、ある。

 

 

 

 

 






* 忘 れ ら れ た 桜 の 木 *

 

 

 

 

 

 





誰かが言っていた。(それが誰なのか、薄く霧のかかるぼんやりとした記憶では解らないけれど、あれはきっと卜部さんだったのだろう)

 


忘れられた櫻の樹が、立つのだと。

 

 

 

 

 




「………綺麗…」


そこは例えることが許されるのならば、異世界。
神が住むのだと言われてしまえば納得するような神聖なる世界。舞う花片。


気付かれないのが不思議な位気高く美しい、狂い咲き。




世話しなく進みゆく世界からきっと誰かが切り取った幻想世界。


何処に行くのかと問われたけれど答えは誤魔化した。
闇夜を眺めながら一週間懸けて、ようやく探し当てた。


教えたくなかったのは、例えば喧嘩した時内緒で隠れられるような場所が欲しかったというのもあるけれど違う。



呼ばれた気がした、

夢の中 美しい櫻の樹に。



穏やかな風と雪の如く降る花片。
櫻のお膝元でビニール袋で窮屈そうにがさがさと抗議を訴える一人晩酌セット(未成年用)を引き出す。

「…あ、飲み物忘れた。」

うっかりしていたのか。
中に入っていたのは少量の菓子類のみ。
こんな喧騒から離れた場所に自販機なんて物はある訳もなく、仕方無しに櫻相手のささやかな宴会を始めた。




忘れたくない。


信じていたい。

 

 

 



夢はそう言った。

美しい…と言うよりは可愛らしい、将来有望な容姿をした子。
見ている此方が切なくなりそうなそんな哀しい顔を浮かべて泣いていた。


外見じゃなく、彼女の心。


酷く傷付いて、それでも泣かないのは身に纏うものが女性の着物ではなかったのが原因なのだろうか。

わからない



けれど


呼んだのだ、彼女は。


だからきっと私には―――忘れられた想いが ある。

 



それが何か、なんて


わからないけれど。




忘却の果て見付けた


紅蓮の如し、緋色


 

 

 


きっとそれも、忘れてしまったわからないもの。



 





口に含んだままだった春期限定と銘打たれた桜チョコがあっけなく解けて消えていった。

 

 

 

 



(光の淡い恋(笑)またノーマルにチャレンジしましたか緋咲。そして光独白が楽しいことを発見。片想いですか?これは。わきゃんないよ…書き手も解らないヨ(笑)まんひかだといいなとかいう希望系小説(か?)でした...)
(050616//Hisaki.S.  BGM:より子、忘れられた桜の木・あなた)