空を見上げればその姿が見れるんじゃないかとか。 懺悔の宴と償いの希望。 一年という時間がもたらす変化に身を任せた者は、いないに等しい。 それぞれ進むべく道は元々違うのだから、変化するのは当然なのかも知れない。 それでも本質的な、己の心の部分といったような深い深い深層心理が揺らぐことは終ぞ、無く。 「…お、ジェイド。仕事は?」 「終わらせましたよ。今日に限ってわざわざ私の邪魔をしようとする陛下からの直々の仕事も全て完璧にこなして差し上げました」 「タチが悪いなぁ…。まぁ、いいさ。ノエルがもう来てるらしい。港に着いたら直ぐまずはバチカルに行こうと思うんだ。」 「えぇ、よろしいですよ。年寄りは進んで動くことを望まないので、その方がとーっても助かります。」 「はは、そうだな」 自称、華麗な使用人は今日も何処か薄暗い笑みを浮かべながら、それにすら、気付くことは無く。 そうしてそう知りながらも何も言わない言えない軍人はこつり、と足を進める。 本当、に気付いたのは、つい先日すぎて、うっかりの度を越している自分がどうしようもなく愚かで仕方ないなんて。 「…バチカルは、陽気にパレードでもしてるんでしょうかね」 空に向かって、内に向かって。 王都に赴けば、昇降機のてっぺんに住まう姫君がそわそわと部屋の中を歩き回り、嘗ての仲間である使用人と敵国だった軍人の姿を認めてまぁ!と声を上げる。 「ガイ!それにジェイド!何をしていらっしゃいますの?陛下から何か御用でも?」 「いや、そうじゃないんだけどな。久しぶり、ナタリア。」 「えぇ、お久しぶりですわガイ。」 「はいはーい、幼馴染の再会はよろしいんですが、今日は他にも迎えに行かなければいけませんよー?さっさと説明しちゃってくださいね。」 「また俺なのかよ…。…まぁ、いいさ。ナタリア、今日は何の日か、知ってるな?」 "今日"に思い当たる事柄なんて、彼や自分が此処に居る時点で分かりきったことだったのかもしれない。 ほんの僅かに息を飲み込んで、それでもそれを悟られないようにと、彼女なりに逡巡してから、えぇと声を出す。 「わかって、いますわ。」 「それじゃぁ行こうか。君は国王の目を盗んでルークのところに来るのが上手だったよな?」 「……えぇ、もちろんですわ。第一、ガイ。わたくしを誰だと思っておりますの?」 誇り高く、偽りの王女は真の王女のようにす、と背筋を伸ばし、其の名を告げる。 キムラスカを統べる姫。 ナタリアはにこりと微笑んだ。 「あ!」 「おやおや、フローリアン共々かくれんぼでもしてるんですか。駄目ですねぇアニース?」 「違いますよぅ!フローリアンが子供たちと遊んでる最中に音叉無くしちゃって、探してたんですー!…ってガイ?ナタリアも?っていうか何で?何で大佐いるんですかー!?」 「アニスは相変わらずですわね。」 「いやー、実に変わらないなー。」 「ちょっとガイ!失礼だよ!えいっ!」 「うぉ!不意打ち禁止!禁止!!」 「あはは、アニス、元気だねー」 教団を再建するという、彼女と彼女の大切な7番目のレプリカの約束を果たすために、幼い子供はそれよりも遥かに幼い新たなレプリカと共に、翻弄している。 バックグランドに何があるのか、そしてその強大かつ柔らかな助力になるべく頼ってやらないよ、なんて宣言を以前聞いたものだが、案外、それを護っているらしい。 そんな導師と導師守護役は重厚な扉を開けて直ぐ右端で蹲りながらきょろきょろと視線を彷徨わせていた。 「アニス、あったわ、よ……?」 「やあティア、」 「お久しぶりですわ。」 「やあやあやはり変わってないものですねー」 「………何か事件でも…?」 失せ物探しに付き合わされたらしい、教団のバックグラウンドの後継者ともなるであろう人物は急ぎ足で音叉を片手に駆けて、このメンツに少々面食らって。 「いやいや、物騒ですねぇ」 「貴方が言えた台詞でもないですわ。」 「大佐が居るとなんか物騒ですもん、ねー?」 「おやおや失礼ですねー」 「それで、何か用ですか?」 気づけばぽんぽんと会話の応酬が広がり、そしてそれに嫌悪を覚えることも無く珍しくのってしまう自分がいる。 これはあの旅の中での変化がもたらしたものなのだろう、なんて仕様の無いことを考えながらさて、と年長者らしくこの子供じみた集団の懐かしさを讃える会話を区切る。 「主要キャストも揃いましたし、行きますか?」 「何処にですか?」「何処行くんですかー?」 「それはもちろん、タタル渓谷ですよ」 何処かの姫君と同じように密やかに息を呑む姿に、はははと笑いながら後ろでも少々たじろぐ気配が残る。 変わらない、変われない。 結局誰もがあの時あの瞬間から、ほんの僅かな歩みを踏み出したかのように見せかけて。 それでも、止まったままなのだろう。きっと。 「ふわー!変わらないねぇーっ!」 「そうですわね、相変わらず、此処は魔物も居て少々危険ですけれど、綺麗ですわ。」 「そうね、それに、懐かしい。」 「うーん、マルクトと違って見えるもんだなぁ、此処の海は。」 各々が、我先にとばかりにアルビオールから駆け出してゆく。 「すみませんねノエル。貴方も来ますか?」 「いいえ、私は、此処でお待ちしています。ルークさんに、よろしく伝えてくださいね。」 事の他聡い女性は、一年の間に変われない自分やその他を追い越すようにその腕をめきめきと上げたらしい。格段にスムーズに進む音機関を、偏執狂がやけにそわそわと見ていたのは皆、知っている。きっと何処かの部品が何かに変わっただとか、相当の者以外には理解しがたい精密な部分が膨大な時間をかけて変化していったのだろう。 時間は短いようで、長いようで、それでもやはり、長かったのだ。 「それじゃぁノエル、此処でお待ちする貴方に、とっておきを教えて差し上げましょう。」 「はい?」 「私たちの体を構成するモノ、物質。それは当然ご存知ですね?」 「えぇ、音素、ですよね。」 「それは即ち、どういうことか。貴方はきっとわかりますよね?彼は、何処に行ったか、わかりますね?」 巡り巡る、血潮、その中を、何が居るのだろう。 それを告げたなら、先に外へと繰り出した変われない人間が何と言うだろう。 自分と同じように、如何して気付かなかったのだろうと声を出して笑ったりも、するのだろうか。 「貴方はまだ私たちと共に、此処を溢れる位に巡っているのでしょうね。」 愛された子供、世界に捨てられた子供。 変われない愚かな大人たちと少女たち。 誰かに忘れられてもそこに巡り巡ることを知ったたった数人には、必ず忘れられることはない。 安心しなさいと、宥めてやる実体は其処に居なくても、きっと。 ―――此処に、居るよ。 |
そんな声はきっと夢で、聞こえたりなんて、しないだろうに。
(ルークはアイドル。ガイもティアもナタリアもアニスもジェイドもミュウも、旅の中では散々だったけれど、結局、好きで好きでたまらない。だから変われない。HYDEたまの「SEASON'S CALL」を聞いて、「いつも身体中を君が駆け巡り溢れそう」のフレーズからぶぁーっと出てきた。ので、またしても一発本番です。こう、大人数の会話を書くのが苦手で仕方ないと思ってたんですが、アビスのPTは止まらない…!あまりに応酬が止まらなくてやばいので、最初はガイ視点だったんですが、冷静に落ち着こうと思ってジェイドにしてみました。ジェイド動かしやすいね…。BGMは季節呼び出し(笑)と鬼束ちひろの「螺旋」でした。只管ループで聞くとどういった雰囲気で書いたか味わえます。真っ暗ってことです。)(060628) |