黙示録>>opening-song>>stanza-01

 

 


僕は死しているのも同然なのだという、青年。
生きてるのに死んでるみたいだと言った、殺人鬼。
何で此処にいるんだろう、居られるんだろうといった、天然傑作品。

ならば。




ならば俺は。




 

 










「いっちゃーん。」
「なーにー、友ー。」

 

機械音。よく少女が立てる擬音。ふぃーんと言うような這うようなそんな音と共におこるかたかたという音すら遮るように、死線を越えて少女がぐうたらしながら声をかける。
「いっちゃん、大学行こうよー。」
「いや、俺も行きたいかもと思って2人に声かけて受験して受かって…………って、何?」

3月20日。
中学校、高等学校。卒業シーズンも過ぎ去っていない、まだ間もない頃合に。
玖渚友は、城咲の高級マンションの31階と32階をくっつけた漫画みたいなふざけた部屋を占領する機械にまみれながらいたって平然とそういった。

「あー…玖渚?友さん?友?お前何言っちゃってんの…?今更?っていうか俺本当、試験とか色々受けたよ?自力でだよ?受かったよ?勉強して無いのに!っていうか遅いよそんなん言うの!」
「それくらい僕様ちゃんがぱぱっと手を…」
「入学前に転校かよ。」
「いいじゃんいいじゃんー!!僕様ちゃんのお願いだよ!?此処、さっちゃんならぱぱっと頷くよー!?」
「あれと一緒にすんなよ。俺は壊しはしないよ。…あ、いや、するか。」
「一人漫才はいいの!とにかく僕様ちゃんがいっちゃんを鹿鳴館にー!!」
「……あぁ。あぁあぁ、うん。解ったよ友…。ひょっとしてひょっとしなくても…"いーちゃん"?」
「うに。いっちゃんはエスパーだった!」
「いやいやいや。」

ようやくして、理解する。二ヶ月前あたりに帰ってきたという、玖渚友の愛しのいーちゃんは今年ばっちりぴったり大学一年生だということ。
「うん、まぁ…いいけど…。鹿鳴館はピアノ綺麗らしいし…広いらしいし…。」
「じゃぁじゃぁ、僕様ちゃんにどーんとまかせてよ!ばっちりおいでいっちゃん!」
「いや、でもあの…こっちも色々と…」
「いーでしょー!僕様ちゃんがなんとかするってばー!」
「……うぅ…」
完璧に、負けた。
昨日強制的に風呂に入れたばかりのハワイアンブルーに勝てる者など、この場には皆無だった。
故に彼女を止めるということは不可能だった。




転入、という形で様々な書類やらをすっ飛ばして生温い試験を受けて。晴れて無理矢理転校と改めての社会復帰は確定し、という人間が少なからずの不安とそして安堵を覚えたのはたった2日後のことだった。
「友、本っ当作業早いなー。惚れ直しちゃう。あ、はいテスト。結果だよー。」
「ふいーん、満点?全部?」
「えぇ?友、よく見てよ。プラスで10点してあるでしょ。何か褒められた。」
「ふぃーーん。」
大して興味も無いような様子だがほんの少しだけ気になるような感じで、結果用紙をひらひらと振る。機器からたつ微風にもあてられ、恐らく大して力もいれずに抓んでいたんだろう。友の手から紙は飛び、見事俺の手に戻ってくる。
「おぉう、ナイスキャッチ俺。」
「とりあえずおめでとー。僕様ちゃんもいっちゃん大好き好き好きー!」
「ぐお!行き成り圧し掛かってこられると吃驚するよ!…っと。ねぇ友?俺もさ、入る前にあってみたいんだけど、いーちゃんに。知らないと接触したくても出来なさそうじゃない?」
「それなら今日だねー。」
「へぇ、そう。きょ………って今日!?今今日って行った!?」
「うん、これから僕様ちゃん検査だもん。付いてきてねいっちゃん。」
よいしょ、と零しながら彼女の部屋に存在感と圧迫感を放ちながら電気代を暴飲暴食していた機械達の電源を落としていく。相変わらずのハードなマイペース人間、玖渚友。
彼女は今日も今日とてマイペースに生きていた。
「いってきまーす!」
「いってらっしゃーい…」
「あ!いっちゃんも下までだよ!!」

そして巻き込まれる俺。

 









『幻想即興曲とはよくもまあ言ったものだね。』
嘗て一度だけピアノを弾いた時に、丁度そんな事を言った人物が居た。それは良く知る人物であり恩人の一人であり、何よりも大切な部類に入るひとたちの、一員。
「幻想のげの字も私には浮ばないね。ドラマチックの欠片もない。一体如何して此れが幻想なのだか教えて欲しい物だね。まぁ君の演奏はとても美しいけれどこれだけは頂けないな。」
「そんなこというけど、別に…俺達の凡人的思考回路には理解できないってことじゃない?」
「うふふ、それは少しばかり可笑しい。可笑しいね。私たちに凡人的思考回路等無いだろう?ありえないだろう。そうだね、あるとすればそれは、」
血の匂いだけだろう。

それはとても納得のいくようなとても可笑しな言葉だった。
だったからこそ、それが軋むように痛かったのだろう。けれどあの人は痛みなど覚えなかった。それはきっと俺が目覚めてはいない可笑しな準備期間だったからなのだろうけれど。
彼等が、俺を受け入れていることに不思議で不思議でたまらなかったなのだろうけれど。

そんなくだらない思考と動く指と、それから響く音を切ったのは、直ぐ真上のハードマイペースな青色サヴァン、玖渚友の部屋の方から聞こえた足音だった。
「うーむ、噂のいーちゃん参上!ってとこかな…。」
モノクロニズムの世界から逸脱し、動く手を最期のひとつまで精密に動かして。
幻想は終了した。



 

 

 

 




「おい、友?友…居ないのか?」
「友ならば検査中だよ。どうも俺はアイツに仕組まれちゃったらしくって…ね。いーちゃん?」

特製コンピューターのずらりと並ぶ友の生活拠点に座り込む俺を一目見て。










―――・・傍観者は
その狂った歯車丸ごとを



 

 

 



壊された。

 



(とりあえず序章。中途半端すぎる序章。)(何時かこれに続くような話を番外編で書くかもしれないです。っていうかいーたん主人公なのに薄いな…まぁいいか。)(そしてきっと解る人にはわかるであろう人物もほのめかしてみました。これでなんとなーく主人公が見えるかと…思ってみたり。)(051123//Hisaki.S)