「いよぅ、少年。おサボりかー?」
「あ…あぁああ…、あぁあ!!」
「うにー!潤ちゃん、よく来たんだねー!!」
畜生こんなことならばさっさと!
心中ぼやきながら。
眼前の真紅を目の前にして動けなかった。
「…あのう。」
「あぁ?何だよ。」
「………俺、帰ってもいいですか…?」
「「駄目ーーっ」」
「ハミングですか。っていうか潤さん、友の声じゃあんまり目立たないです…」
ずずっと、ぐーたら人間の代わりに自分で淹れたコーヒーを啜って、とりあえず眼前の人物を見る。
彼が見たのなら、アンチ癒し系、リバース和み系とでも言われそうな。赤くて赤くて赤いコブラな人類最強請負人。赤き制裁。鷹。
哀川潤。
哀しき川を彼女ならばきっと血かそれとも別の赤色で潤す、そんな。
「潤さんだ…紛う事無く潤さんだ…!!」
「何だ?嬉しいかー?そんなに嬉しいのかいっちゃんはー。」
「違います…そうじゃないですよ!嬉しいけどうれしくないですよ!俺なんか兄さんに散々散々潤さんの武勇伝を!つらつらと語られ続けられてちょっと怖いんですよ!しかも昨日も電話で!」
「ほほーぅ、……そんなに不満かぁ?」
「……いいえ…。」
あはははと笑う友を恨めしげに睨んで、同じように隣でけらけらと笑う潤さんをサラッと無視してみた。
「っていうか、そうだよ。俺は本来友に呼び出されたんだよね。何だよ折角サボって呑気に眠ってたのに。お前、赤神家の絶縁された一子の孤島行くって行ってたでしょ。」
「そう、それにいっちゃんを誘おうとしてたら、潤ちゃんがタイミングよく来たんだよー。」
「へぇ、そう。それはまた計ったようなタイミングで………って、俺も?俺も行くの!?」
「いーちゃんといっちゃんと僕様ちゃん。きゃはは!呼びにくい!解りにくいー!!」
「おう、玖渚ちゃんは今日も元気だなー!」
ほんの数日前、異端の赤神である赤神イリアから、玖渚友は招待を受けた。一週間の滞在という条件で約束を受け、明日から出発すると、昨日の深夜に聞いていた。
「え……え、あの、……なんで俺なの?」
「そりゃぁ愛しの君にお願いがあってだなー」
「…潤さんが…?」
そこで改めて口を開いた潤さんは完結に単純な、依頼のようなことを言う。
あの島で起こるであろう諸々の事件を、どうにかしてほしい、と。
「……じゃぁ、潤さん行けばいいじゃないですか…。」
「馬鹿、そんなじゃつまんねぇだろ?わざわざ頼んでるんだ。どうにかしてくれたら金ぐらいやるよ。」
「……え、潤さんから依頼金もらえるんですか…!?ぷ、プレミア金だ!!すごい、それいい…!!!」
結局その場のノリとテンションと、それから多少の脅しによって。
交渉は何時の間にやら、成立していた。
それから珍しく1日暇らしい友と潤さん共々話し込んでいるうちに昼になり、おなかすいたー!と珍しく友とそれに便乗する潤さんの為にしぶしぶ料理を振舞うことになり。ぱかんと彼女の家にこじんまりと存在する冷蔵庫を開けて。――静かに閉めて。
そうして、今。買出し班は真っ赤なコブラに乗せられて、隣り合わせのスリルと戦っていた。
「あ"ぁ―…うぉおう、と、飛ぶ!潤さん、貴女楽しんでますよね!楽しんでま…ぶっ!痛い!噛んだ!舌噛んだ!!」
「何だぁ?もうギブか。ひ弱だなー。」
貴女が可笑しいんですなんて言葉を吐こうとして開いた口は、にやりと楽しむように微笑んでアクセルを半端なくありえないような勢いで踏んだ潤さんと、そしてそれにより、より一層勢いのついたコブラが受け付ける突風により掻き回されて。
もう何もいえないまま、味のない空気をびゅんびゅん飲み込みながら、暴走車はちっぽけなコンビニへと走っていった。
―――食うか?
もう、それも随分と前。3年ほど前。
彼女は確か、そんな風に俺に声をかけた。
同じように全身真っ赤な目覚め立ての俺が薄暗い路地で見上げた請負人が手に乗せている肉まんに。
あぁ、そうだ。最初は。
……かぶりついた。
「痛ぇ!お前っ…こら、離せ。まだあるから離せ。じゃないと無理矢理ひっぺがすぞ!」
「………ご、めんなさい。本当にお腹すいてて…もうこれは生きてて初めてってくらいお腹すいてて…貴女赤いからなんだか苺に見えてつい…。」
「あぁー…しゃーねぇな。ほら、早くしろ。」
「え!?あ、ちょ…ま、待った!汚れる…!!」
ひょい、と。軽々と肩に担がれた状態で如何にかして降ろしてもらおうと抵抗を試みるものの。
当時まだ155程度しかない身長の俺が長身の人物から易々と降りれる訳も無く。結局そのまま同じように、赤い車に、肉まん(4個)とともに降ろされる。
「え、あの……これ、食べちゃって…」
「あぁ、いいぜ?たーんと食いな。借りにしてやっから。」
「………」
「…冗談だよ。ほら、はやく食え。」
ふっと笑って、また何処から出したのかわからないけれど。
温かい肉まんを差し出した。
「……そういえば肉まんだった。そして酷かった。潤さんはひどかった。」
「あぁ?何が。」
「昔から…いや、今もですけど、友みたいにマイペースだな、と。俺ころっと騙されちゃったし…あの後すんごい勢いで車走らせるし…。お陰であの後ちょっとだけ肉まん恐怖症だったのに!」
「騙されるってのはお前が馬鹿なだけだなー。」
「うぐっ…!し、失礼な!馬鹿にしてますけど、俺!方向音痴はちょっと直ったんですよ!?」
「本当に少しだけな。」
「うぅっ…!だったら何でそんな俺を絶海の孤島に!どうして!潤さんめ!いじわるー!!」
「楽しそうだからだよ。」
そこで、シニカルな笑みで此方を少し見て笑って、彼女は。
「お前なら楽しめるだろ?あの、島。」
言う。
「……了解しました、よ…。承りましょう、やってやりましょう。行ってやりましょうとも。貴女の為に。…人類最強の、為に。」
がさがさと音を立てる5袋もあるコンビニ袋のやかましい音に負けないように。
ほんの少しだけ。
声を張り上げていった。
(そんな訳で潤さんです。セクハラ潤さんです。でも今回はそこまででもないですけど。)(設定が謎すぎますよね。えぇ解っている。これは俺しか楽しめていないことぐらい。(笑)現時点ででているあだ名、いっちゃんというのはミス変換とかじゃないです。固定です。どうしていっちゃんなのかとかは、後々明かします。遅くてクビシメロマンチスト。)(051123//Hisaki.S)
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