「……ありゃ?聴こえてない?っていうか無関心?無感動?…こーんにーちはー!えーっとー!本家からで、リーダーさん殺しに来ちゃったりしたんですけどー!……くーなーぎーさーさーーーん!!
………お?あれ?何か見知った顔がそこに…」
「はーい!」
「わぎゃー!」
「あり?無能さんたちが雇ったんじゃないの?違ったの?僕様ちゃんを殺しに来たんじゃなかったの?」
「そ、そうだけど…!行き成り背後からっていうか頭上からずどーんて!重い!重いです!!退いて!とりあえず俺の上からのいてー!!」
きょとん、と。呆れたように俺を眺める死線のうちのひとつ。
頭上から無邪気に笑うようなそんな視線。それが死線。
「……そういや、俺ってさ…。一回…つか、最初は友を殺しにきたんだよね。」
「ん?んー、そうだねー。」
潤さんが(鱈腹と、そりゃもう山のように作ったもの殆ど友や俺の分も余計に食ったんじゃないかというくらい)飯を平らげて、満足そうにセクハラを働いて帰ってから、不満げに残りの腹の空間をデザートで埋めんとする友が椅子に座って待ち続けている。
そんな彼女にふと零せば、彼女にとって今はプリン以外何も見えないかのような、そんな適当すぎる応答が帰ってくる。
「いっちゃんプリン!プリンまだー!?」
「あぁはいはい…ちょっとまってよ。これカラメルが掛かりにくいんだってば。鍋だよ?鍋!」
「そういえばいーちゃんも行くってー。」
「(聞いてないなこいつ)お前が誘ったんだろうに…いーたんも災難だなぁ。…はいよ。プリン。どーぞ。
それにしても…絶海の孤島…戯言遣いの傍観者は暇だろうに…」
「暇じゃないよー、僕様ちゃんもいっちゃんもいるもん。」
青い少女は。
両手にはカレーを食べたりするときのための巨大スプーンを掴んで、鍋サイズプリン(玖渚特注特製品。因みに即席粉プリン)を確実に消化していく。そんな彼女には半分位しか会話も処理されていないのだろう。
忙しなく上下に動く、変わらない少女。変われない少女。変わることを望み、望まぬ少女。
「…ねぇ、友。」
「ん――?」
「あの、さ。
大丈夫、なの………?」
きょとん。と。
青い瞳はぐらりともゆらりとも、微々たる動きすら見せず。そうそれは確かに呆然となんかではなく純粋にきょとん、と。
それから暫くして謎のうめき声を上げて(新手の鳴き声か。うにーやふいーんに続くのか!とか期待してみた)考え込む。大分、青から群青色になりつつあるあたり、恐らく島に居る最中、またいーたんに風呂に突っ込まれることは確実であろう。
「うにー?……多分?」
へらりと、笑って。
小首を可愛らしく傾げて。
それでも。
それでも、玖渚友はにこやかに微笑んだ。
「う。うう…うー?う、兎?違う…う……」
「兎吊木。」
「あぁそうそう!それだ!」
「まったく思うんだが、君はいい加減に人の名前を覚えた方が良いんじゃないかな?それともそれは他人に構って欲しいという微かな願望の現われとか?なんだい?そうなんじゃないのかい?何でそんなに皺を寄せるんだい、眉間に。」
「……いえ、別に…。それで、兎吊木さん。」
「さんはよろしくないな。」
「…う つ り ぎ さ ん !」
「はいはい何かな?」
「友は?友今日、居ないんですか?それからあの人も。」
「あぁうん、両方居ないね。もっとも死線は…検査日だ。」
「け、んさ…?」
「おやおや君は知らなかったか。まぁ無理もない。まだ1週間もたっていないのだから」
「あの、兎吊木、さん…。検査って……?」
――何の?
本家による殺人未遂はターゲット、玖渚友と遂行者であるの和解の時点で消去された。
けれど。
それは単なる無駄。無駄にしかすぎなくて意味など何もない。殺害という行為を。
玖渚友は、十分に万全に。理解していた。
解っていたのだ。
「…うん。」
「内緒だよ。いーちゃんは知らないからね」
「…解ってるよ。」
「いっちゃん、泣く?泣いてくれる?」
「お前は、泣かないの?お前のことなのに。」
「泣かないよ。僕様ちゃんはいつでも何処でも前向き元気な向上思考だからね」
「うん、そうか…じゃぁ俺が、お前の分まで泣いてあげるよ。」
無邪気すぎる笑みと、その異様な幼さを残す停止した体を抱きしめて。抱きしめられて。
「うに、もう泣いてるよ。」
「あぁもう見ないでよ。頼むから…もー俺格好悪い…!」
「じゃぁいーちゃんが泣いてくれたから、僕様ちゃんは泣かないよ。」
「うん…うん。じゃぁまた、明日…な。」
出来る限り、最上級の笑顔と仮面を玖渚に向けてから。彼女の部屋の底をぶち抜いて作った、下に降りて行く階段をゆっくりと下りていった。
まだ視界がぼんやりとしていたし、涙腺もあいつに馬鹿にされそうなぐらい緩んでいたから。
すこしだけ階段から落ちかけたけれど。
それでもやはり、友の一瞬浮んだ哀しげな瞳が離れなかったから。
声を殺すようにして、あの2人を思って。
泣いた。
◇おまけというかなんというか。◇
「あ、もしもしー。いーたんー?」
「………この電話は只今通じておりません。」
「あ!酷い!酷い!!」
「嘘だよ、。だろ。」
「わぁ、何だ…いーたんのサドっこ。お前マゾじゃなかったのかよ。」
「誤解を招くようなことをいうな!っていうかお前、泣いてたのか?喉がぼろぼろだぞ」
「うぁ!ばれた!?ばれちったよ!いーたんエスパー!?」
「……ねぇ、用がないなら、切りたいんだけど…」
「え、無理。駄目だよいーたん。俺は今から言う言葉だけを言うために電話したんだから。」
「………」
「んっとねー、友ね、すごーくやわらかかったよー?」
「……………ちょっとまて、それどうい」
「抱っこだけだけどねー。んんー、明日が楽しみだなぁ、いーたんが果たしてどんな反応するのか。」
(そんな訳で玖渚編終り。なんだこの微妙なシメ…とりあえず続くのはいーたんです。いーたん。……嫌なシメだから嫌な始まりに為りそうですね!緋咲さん!(笑))(051127//Hisaki.S)
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