きらきら輝くそれを見たのは何時だったろうか。黒真珠のようなほんの少しだけ鈍く反射する、それを。
ふとよぎった思考を消去しきれず、ふるると戮が頭を振った。
「あぁ、また酷いね戮…。」
ずるずると血で洗われた日本刀を引きずりながら現れた江夜に目を向けたのはいいが、すぐさまその目は見開かれる。
「おい江夜お前…その腹如何した?……しくったのか?」
「違うよ。こんなのでしくじるなんて情け無いよ。只の…かすり傷。新良さんに、笑われちゃうね。」
黒のブラウスの丁度右中央、さっくり綺麗に斬られたらしい腹部にぐるぐると無造作に巻かれたカーテンは明らかに応急処置であり、単なる気休めにしかならないことはすぐさま解った。当然だろう、江夜の腹部に巻かれた黒い暗幕からも血はだくだくと、暗闇でも解る様なソレがぽたぽたと滴っていたからだ。
「嘘こけテメェ。じゃーなんで俺様と同じ綺麗な顔に皺なんか寄せちゃってんだよ。あぁでも平気なら今から突っついても平気だよなぁ?もーつんつんと突付いても平気だよなぁ、江夜クン?」
「…参った。結構痛いから、突付くのやめて…」
ずんずんと近寄ったところに日本刀の切っ先突きつけて止めようとするのもやめて欲しいな、と呟いてみてから、改めて確認をする。
「あーぁ…ったく。」
「溜め息つくと幸せ、逃げちゃうよ?」
「お前のせいの溜め息なんだよ!…で、完了か?」
「うん、完璧にね。」
ただし怪我は完璧じゃないかもね。
にこりと少しだけ眉のあたりに皺を寄せてから、ふたりで、歩き出す。残るのは血に塗れ血に汚れ血に浸り血に埋もれた真っ赤な真っ赤な部屋と、そうして動くことを忘れてしまった屍たちだけだった。
「さて、帰ろうか。こんな血の匂いの濃い所に何時までも居たく無いでしょ?」
「あぁ、そうだな。でもお前は大丈夫なのかって話だな。」
「……ちょっと出ちゃっただけだし平気だよ?」
「ちょっと?」
「うん、腸がね。あぁ、小腸の方だけど。大腸はちゃんと中に入ってるよ。」
「腸……小腸…あの、にょろーっとしたやつ?この前の解剖図に載ってたあの長いヤツか…あれ、出たのか!」
「うん、べろっと。…や、違うな。にょろっと?うにょっと?」
「あぁいい!そんな生々しい表現しなくていい!」
「そう?…そうだな、こう、すぱっとなって、でろっと。」
「いい!そんな的確な表現を追及しようとしなくてもいい!」
うー、と唸りながら頭をがしがしとかきつつさくさくと歩き進んで、負傷した江夜の為に自ずから自主的に扉を開けた戮を
ほんの少し笑みを浮かべて、江夜が眺めて。
そして。
そして、双子は。
音も無く証拠も、跡形も無く
――――――消えた。
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